Destiny



飲めないお酒をグラス半分飲んだ舞美は、みやの横で寝ている。
事情を何となく空気で察してるみやと3人だったせいもあるんだろう。
私と舞美がふたりで会う事などない事も、きっとわかっている。

「それにしても、舞美の気がこんなに緩むなんてねぇ・・・。」

みやはそう言って隣で寝てしまった舞美を見ている。
私の位置からは姿は見えない。

「ふたりはさ、どうなってるの?」
「どうもなってないよ。」

みやはつまらさそうな顔でごくりとお酒を飲む。私も同じように飲むといつもより酔いが回るのが早いと気付く。
ふわふわとした感覚が思考を曖昧にして心の奥底にある感情がもやもやと浮かんでくる。

「どうもなってないわけないじゃん。気づいてるのみやだけなんでしょ?話してくれたっていいのに。」
「誰かに話しちゃうのが怖くて。自分の気持ちが、ね。」

これを恋とか愛とか。どれにも当てはまらなくてそれなのにこんなにも魅かれ合うこの感情をどうしたらいいのか。
現実にはただ、気持ちをずっと奥に閉まって接する事しか、出来なくて。
だけど本当に時々こうして気が緩む舞美を見ると、どうしていいのかわからなくて。

「なんかよくわかんないけど。みやはいつでも相談に乗るから。」
「ありがと。」

みやはそう言ってお酒を飲み干すと、財布から数枚の千円札を取り出してテーブルの上に置いた。

「じゃあ後は任せたよ。」

ひらひらと手を振ってお店から出て行ったみやに手を振り返して見送ると、まだ寝てる舞美のそばへ移動した。
すやすやと規則正しい寝息を立てているけど顔は真っ赤なままだ。

「舞美。帰るよ?」

ゆさゆさと体を揺さぶるとうーん、と声を上げて薄っすらと目が開く。

「佐紀。」
「うん、いるよ。」

そう言うと舞美の長くて細い腕がしっかりと私の体を包み込む。
酔っていても力は強くて私の体は舞美の腕の力と重力でそのまま舞美の上に倒れる。
こんなに近づいたのはいつぶりだろう?と考えて気持ちを持ち直す。

「ほら、立ち上がって。帰ろう?」
「佐紀の、家?」
「うん。」

甘えるような声が吐息と共に耳にかかって、酔いと一緒に体の中を駆け巡り体が痺れる感覚に襲われた。
思わず漏れた私の息は舞美には届かない。



何とか体を起して会計を済ませてタクシーに乗せて家に着くと、ソファーに座らせた。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して渡すと、ごくごくと一気に飲み干す、その喉に。視線が奪われる。

「佐紀。」

甘えるように私を呼ぶ声に促されるように隣に座るとまた、抱きしめられる。
そのまま今度は押し倒されて、より体が密着する。

「佐紀、佐紀・・・。」
「うん・・・舞美。」

ただ名前を呼ばれるだけで呼ぶだけでどうしてこんなにも心乱されるのだろう。
私よりも大きな体に腕を回して引き寄せる。
このまま何もかも捨てて忘れて溶け合えてしまえばいい、だなんてそんな思考はすぐに打ち消した。
舞美の涙が頬に落ちてくるのを私はただ黙って見ていた。
苦しそうにきつく結ばれた唇を解く方法はわかっていた、わかっていたけれど・・・。

いつものように舞美に這うように触れられて熱くなる体をいつもじっと耐えて抑えていた。
舞美は確かめるように記憶するかのように、愛おしそうに触れるから。だから流れた涙は自分で拭った。
何も出来ないから、お互いいつもこうして何も出来なくて。
だけど体を触れ合わせて感じ合うよりも繋がり合っている気がした。体は繋がらなくてもずっとずっと、深いところで。
多分この先もずっとずっとこうなんだ。誰と付き合っても誰と生涯を共にしてもずっと。

ずっと。



END