愛する名前



「ただいまー!」

仕事から帰ってきたらキャプテンがエプロン姿でキッチンからひょこっと顔を出した。

「おかえり!」

お腹ぺこぺこで急いで服を着替えようとしたら、キャプテンに服の裾を掴まれる。

「どしたの?」
「ねぇ、そろそろキャプテン、じゃなくて佐紀って呼んで欲しいな?」
「えっ!」
「ダメ?」
「えっ、いや・・・でもその前におおおお風呂入ってくる!!」

恥ずかしくて顔が真っ赤になったのを見られないように慌ててお風呂場に駆け込んだ。

◇◇◇

「佐・・・うわぁやっぱり恥ずかしい!」

湯船につかりながらぐぅぐぅ鳴るお腹を押さえる。
呼ぶのは全然いいんだけど何って恥ずかしい。ずーっとキャプテンって呼んでたのにそんな急に。
でも、呼んで欲しいって思ってたんだなぁって思うと・・・でも急に無理だよおおお!
もう暑いしおなかすいたし出たいけど顔合わせたらどうしようって思ってたら、扉が開いてキャプテンが顔を出した。

「うわぁ!キャプテンのえっち!」
「ねぇ、呼んで?」
「え・・・今じゃなきゃだめなの?」
「そういうわけじゃないけど・・・。」
「じゃあまだ今度!」
「・・・呼ばないと今日のご飯なしだよ。」

キャプテンの意地悪な顔。でもちょっとだけ寂しそうな顔。
お互い見つめ合ったまま沈黙が続く。
言わないとずっとこのままなのかな、って思ってたのに沈黙を破ったのはキャプテンだった。

「早く上がらないとのぼせちゃうよ。」

それは諦めたような寂しそうな笑みで、その笑みを残したまま扉は閉じられた。
その瞬間、考えるよりも体が動いて急いで湯船から上がった。
扉から顔だけ出すとまだそこにはキャプテンがいて驚いた顔でこっちを見てる。

「ね、もう上がるから・・・佐紀ちゃんのご飯食べたい。」

顔から火が出そうなくらい、熱い。
キャプテンがどんな表情してるか見る余裕もなくって勢いよく扉を閉めた。
言ったよ!言っちゃったよ!恥ずかしいよ!でも喜んでくれるかな。
深呼吸して再び扉を開けようとした時だった。自分が開けるよりも先にキャプテンが扉を開いた。
そして驚く間もなく、腕の中にキャプテンが収まる。

「え・・・あ、濡れちゃうよ。」
「いい。」
「ってか裸だし。」
「無理矢理言わせちゃってごめんね。」

無理矢理とかそういうんじゃないよって言おうとしたのに唇は唇で塞がれた。
感情のこもったしっとりとした口づけに夢中になると苦しそうに離された唇。
キャプテンが上目遣いで静かに微笑む。なんて幸せそうな顔してるんだろうって思ったら、止まらなくなりそうで。
キャプテンの服も脱がせようとした時だった。
場違いな、お腹の音。しかも大きいし思ったよりも響いたその音にふたりの動きが止まる。

「先にご飯だね。」

キャプテンが笑うから自分も笑った。
よし、今日はいろいろたくさん食べるぞ!



END