甘く鋭利な瞬間

写真撮影が終わって、控え室に向かって廊下を歩いていた。
のど渇いたなぁ、控え室着いたら何飲もうかなぁ・・・なんて思って歩いていたら、突然控え室じゃないドアが少しだけ開いた。
誰か出てくるのかな、と思ってドアから遠ざかろう・・・とした時、私の腕ががっちり掴まれた。

叫ぶ余裕もなくて、ただただ驚いてその腕を見る。
細い腕なのにすんごい力で・・・私を部屋に引っ張り込もうとしてる。
突然の事だったから、私はそのままその力に引っ張られて・・・そして、その腕の先に見えた人物を見た。

「あ・・・愛理っ!」
「舞美ちゃん。」

そこには悪戯っ子みたいな笑顔で私を見る愛理がいた。。

「なーんだ・・・愛理かぁ。びっくりしたー。」

力が抜けた。
そんな引っ張り込んだりしないで、普通に呼んでくれればよかったのに。

振り向いてドアを閉めた。
どうやら今は使われてない部屋らしく、がらんとして静か。
愛理は私がドアを閉めたのを確認して・・・ぎゅって抱きついてきた。
私はそれをしっかりと受け止めて、背中に腕を回す。

---寂しかったのかな?

さらにチカラを増して抱きしめると、腕の中の愛理が満足げに微笑んだ。
ああ、もうそんな顔されたら・・・もっともっとしたくなる。
そんな欲望が顔を出しそうになるから、慌てて少し抱きしめるチカラを緩めた。
そしたら、あからさまに不満げな顔するから、思わず笑ってしまう。
それが気に入らなかったのか、愛理は私を突き放して背中を向けた。

---拗ねちゃったのかな・・・。

「愛理。」

その背中からまた抱きしめると、私の腕の中で器用に回転して、またぎゅっと抱きついてきた。
いつもより甘えん坊さんだなぁ、と思って頭を撫でてあげる。

「舞美ちゃん・・・。」
「ん?」

愛理はそのまま目を閉じて、顔を近づけてきた。
それは、いつものキスのおねだり、で。

「今、仕事中だしー・・・ね?」

それに今しちゃったらちょっとじゃ済まない気がして・・・。

愛理が、あんな風に幸せそうな顔するから。
胸の奥がぎゅってなって、今すぐ愛理にキスだって・・・それ以上の事だってしたくなっちゃってる。

だけど愛理は背中に回していた腕を私の首に回して、さらに顔を近づけてくる。
大人びた表情は、色っぽさもある。だけどまだ幼い表情も持っていて。
愛理のいろんな表情や成長を、ずっとそばで見ていたいと思う。

ホントにすぐ目の前に差し出された、愛理の唇。
もうそこまで近づくなら、自分から強引に触れちゃえばいいのにって思うけど、愛理は私からして欲しいんだろう。
早くって急かすように体を揺らしてる。

「ああ、もう・・・。」

目の前の唇を見る。
そしてゆっくりと目を閉じて・・・その唇に口づけた。
柔らかくて甘い、愛理の唇に何度触れても私は夢中になる。
もっともっと、もっと欲しくなって、ほら・・・やっぱりちょっとじゃ済まない。
時折、漏れる声は誰にも聞かせなくないから、さらに唇で塞ぐ。
愛理の肩が揺れた。優しく、だけど強く抱きしめた。



「だって、舞美ちゃんの近くで、舞美ちゃんのにおいがして・・・。」

どうやら撮影の時、ふたりで写真を撮った時。
愛理はそんな風に思ってたらしい。

「なんか唐突にそう思って、そしたら我慢出来なかった。」

愛理は無理矢理私とキスしたと思ったのか、言い訳みたいにそんな風に言って、「ごめんね」って。
そんな顔しないで欲しいのに、すごく寂しそうな顔。

「うん。怒ってないよ?」

抱きしめたら、愛理が笑う。
想いが込み上げてくる。ホントにすごく、愛おしい。

「愛理・・・。好き。」

自然に言葉が出てきて、愛理は嬉しそうに微笑む。
どうかいつも笑ってて。
いつだって私がそばにいるから。
だから、愛理は愛理のままで、ずっとそばにいて。



END