ありきたり ありきたりだけど、一番に君をお祝いしたかった。
「ありきたり」 楽屋に入ると愛理が仕事の合間に勉強をしていた。 おはよう、と声をかけて隣に座ると、愛理はにっこり笑って私を見た。 目がとろんとしていてかわいいなぁと思って気持ちが自然にほんわかする。 勉強の邪魔をしないようにと私もこれからの仕事の資料に目を通していた。 静まりかえった部屋には紙をめくる音や字を書く音だけが響いて、何だかその音が気持ちよくて気持ちが集中してくる。 資料の内容を読みながら状況を思い浮かべたりしているうちに、その心地よい音が聞こえてこない事に気がついた。 そっと、隣に座ってる愛理を見るとノートの上にうつ伏せになっている。すーすーと寝息が聞こえてきた。 ℃-uteもBuono!もあって更に学校も。疲れないはずがない。 ちょっとだけ、寝顔が見れないのが寂しくて頭を撫でるともぞもぞと愛理が動いた。 「んー・・・。」 「ごめん。起こしちゃったね・・・。」 「ううん・・・寝ちゃってたんだ。」 むくり、と顔を上げて私の顔を見る。まだ眠たそうなとろんとした顔。 「今日は早く寝た方がいいね。」 そう言って頭を撫でたら、ちょっと不満そうな顔をしていた。 ◇◇◇ そわそわしていた。 部屋でひとりきり。この時間はだいたいいつもそう。いつもと同じなのにそわそわしていた。 それは、あと数分で誕生日を迎えるからだった。 メンバーや友達からメールも来るだろう。それを素直に嬉しいと思うし、歳をひとつ重ねるのも嬉しい。 節目の歳で、大人の仲間入りをする歳。まだ背伸びする感じだけどこれからを思うとわくわくもする。 携帯を見つめていると、0:00と表示された。 それを喜んだと同時に携帯が鳴る。びっくりして慌ててメールを開くと愛理からだった。 メールの内容は『誕生日おめでとう』 そして『誰よりも一番に舞美ちゃんをお祝いしたかった』と。 今日の愛理、早く寝た方がいいという言葉に不満そうだったあの表情。 あの時はどうしてだろうくらいにしか思わなかった。 愛おしさが込み上げる。胸の奥がやんわりと痛み出す。 嬉しいのに泣き出しそうなこの感情を上手く説明は出来ない。ただ愛理の声が聞きたくなった。 出来るのならば、会いたかった。 次々とおたおめメールが来たけど、ごめんと心の中で謝って愛理に電話した。 しばらくのコールの後、愛理の声が聞こえた。 「愛理、メールありがとう。」 「んぅ。」 「・・・愛理?」 もしかして、寝てた? メールが来てからたった5分程度しか経っていなかった。 相当眠かったんだろう。なのに自分の為に起きていてくれただなんて。 「まいみちゃんおたんじょうびおめでとぉ。」 何とか意識を覚醒させて発せられた声が愛しくて言葉が返せなかった。 すーすーと寝息が聞こえてきたからすぐに電話を切った。 その後も数件おたおめメールが来たけれど返事は明日。 せめて愛理と一緒に寝るような気分になりたくて私はそのままベッドに入ることにした。 END |
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