どんな・・・?

みぃたんの汗が頬に飛んできた。
リハーサルに集中していた意識が、汗がついた頬に移る。
それに気がついていないみぃたんはいつものように大きな動きで踊っていた。
最終リハだから気合いが入っているのがわかる。
髪を振り乱すたびに、その髪の先から汗が飛び散る。
それはキラキラ光って、再び私の頬に当たる。

「みぃたん!汗、かかったぁ!」

その声に、動きが止まる。きょとんとした顔のみぃたんと目が合った。

「ご、ごめんっ!」

そうは言ってるけど、にこにこ笑顔なみぃたんに心が躍る。
汗が飛んでくるなんてよくあることだし、私以外もみんなみぃたんの汗が飛んでくる事を経験してる。
それに汗をかく程一生懸命で全力なみぃたんを見てるのが好きだった。
だから私は、しょうがないなぁって笑顔で許して、飛んできた汗を自分のタオルで拭いた。


その時、脳裏にふと。

みぃたんの汗ってどんな・・・?


そんな℃変態な事考えた自分に驚いて、いやいや何考えてるの、ナカジマ!!と自分にツッこんでみる、けど。
一度考えると何だか知りたくなってくる。
どんな・・・。

汗をぬぐったばかりのタオルをまじまじと見つめる。
残念ながらみぃたんの汗はしっかりとタオルに吸収されてしまっている。
じゃあどうすれば・・・。

「もうー。舞美ちゃん、汗すごいよぉ」

その時、愛理の声がしてハッとして声がした方に目をやった。
視線の先では、タオルで豪快にみぃたんの髪をわしゃわしゃする愛理がいた。
そのせいで飛び散る汗が照明のせいなのか、それとも私の変なフィルターのせいなのか、キラキラと綺麗に輝いていて、それが一段と私の心を躍らせる。

「あ、愛理っ!」

それはほぼ無意識だった。
私は愛理が手にしていたタオルを取り上げて、そのままさっき愛理がしてたよりも激しくみぃたんの髪をわしゃわしゃした。
愛理はただただ茫然としていて、みぃたんはされるがままになっていた。

わしゃわしゃするたびに、汗が腕にかかる、それがなんだか気持ちがいい。笑いが止まらない。

夢中でわしゃわしゃしてたらさすがにやりすぎたのか、愛理からストップがかかった。
手をつかまれて、タオルを取られそうになった。
私は慌ててタオルを引っ張った。取られてはいけない、何のためにこんなにわしゃわしゃしたのか・・・意味がなくなってしまう。
愛理は愛理で自分のタオルがまるで綱引きの綱状態になっているのが気に入らないらしく、むっとした顔をしている。
自分の頭の上で何が起こっているのかわかってないみぃたんは、ふたりの間の不穏な空気を感じて大人しくしている。

「なっきぃ!いい加減にして!」

愛理が声を荒げた。少し遠くでキャッキャとはしゃいでいたちさまいもこっちの様子に気がついて、傍観していた。
どんなに愛理が声を荒げてもこの手を離してはいけない。
みぃたんの汗を大量に吸収したタオル・・・絞れば1滴でも・・・。

そこで我に返った。こんなにぎゅっと握りしめてタオルを引っ張っているなら、汗なんてもう絞っても出てこないんじゃないか。
確かにタオルはすごく湿っている。明らかにみぃたんの汗だ。
でも全てはタオルに吸収されてしまっている。

・・・いやでも、どんな。

そんな思考に夢中になっていたせいで緩んでしまったのだろう、手からするりとタオルが抜けた。
タオルは愛理の手に渡ってしまった!

「もう・・・どうしちゃったの?なっきぃ・・・。」

愛理は怒りを通り越して呆れているようだった。
じゃあせめて・・・せめて匂いだけでも・・・。
そう思って、タオルに近づいた。さりげなく、匂いを・・・。
あと少しで、タオル・・・そう思った時、愛理が事もあろうに!自分の汗をそのタオルで拭いてしまった。

・・・愛理のタオルなんだから当たり前だ。
だけど、全て台無しになってしまった。
しかも・・・しかも大量にみぃたんの汗が染み込んだタオルで何の躊躇もなく自分の汗を拭く愛理に、何故かすごい敗北感を感じた。

「な、なっきぃ?」

みぃたんが心配そうに私の顔を覗き込む。もう汗はかいていない。
そしたら急に自分の気持ちがクールダウンした。

っていうか、さっきまでのナカジマは何だったんだ!
汗って!どんなって!
そんな℃変態じゃないし!

頭をぶんぶん振って思考を吹き飛ばす。

そんな私を見て、みぃたんが困ったように笑った。

「なっきぃ、汗かかったんだけど!」

みぃたんの顔を見ると、頬に小さくだけど水滴が付いていた。
それが自分の汗のせい・・・そう思うと今吹き飛ばしたはずの思考が再び・・・。

汗ってどんな・・・?



END