エイプリルフール
事務所に来ると先に着いていたキャプテンはパイプ椅子に座って携帯をいじっていた。 「おぱょー!」 声高々に声をかけると無言で苦笑いしたキャプテンに隣に座るよう促された。 机の上には資料が置いてあって、カバンを机に置いて資料に手を伸ばそうと座った時だった。 『ブブブブーーー』 「えっ!?何!?」 「やだぁ、千奈美。」 「ちょ!!誰!ブーブークッション置いたの!!」 全然気が付いてなかったけど、パイプ椅子の上には不自然にクッションが置いてあってそれを捲るとそこにはブーブークッションが! キャプテンはお腹を抱えて大笑いしていて、思わず顔を真っ赤にしてブーブークッションを投げつけた。 でも、キャプテンがひとりでこんなことするだろうか?他のメンバーならありえるけど・・・。 まだ笑っているキャプテンの横に再び座って会議室を見回す、と。 「茉麻!!!!」 ロッカーの扉の隙間から携帯が見えた。よく見るとそれは茉麻ので。 「今のばっちり動画に撮ったから。」 「ちょっと!まぁさん!!」 ロッカーに隠れていた茉麻がにたにた笑いながら机の向こう側の椅子に座って携帯の画面を見せる。 再生された動画。 自分が椅子に座る前からにやにやしてちらちらカメラを見てるキャプテン。ブブブブーと音が鳴ってすごい形相で立ち上がる自分。笑いを堪えてくすくすと笑う茉麻の声。 「おまえらなぁ!!!」 「いいじゃん、今日はエイプリルフールだし。」 「ああー。騙されたぁ!」 机にうつ伏せになってどんどんと机を叩くとふたりの大笑いが降ってきた。 悔しくて恥ずかしくて誰か騙したくなってきて・・・! 「よし!他のメンバーにもやってやる!」 勢いよく立ち上がるとふたりの表情が困ったような笑顔になる。 あ、そうか・・・。 力が抜けてすとん、と椅子に座る。茉麻がやわらかい表情で自分を見つめていた。キャプテンは俯いていた。 「あー!バカやりたいなぁ!」 わざと大きな声でそう言った。込み上げる寂しさに負けないように。こんな空気は似合わない。 「まだバカやりたいの?」 「ずっとずーっとバカやりたいよ!」 その言葉に茉麻が呆れたように笑う。キャプテンが顔を上げて笑う。だから自分も笑った。 その時だった。会議室の扉が開いて現れたのはももだった。 「みんな元気ー?みんなが寂しがってると思ってももちが来てあげたよー!」 「はぁ!?」 三人のため息が合わさるとももは怒りながらも嬉しそうだった。 「ももち先輩、とりあえずここ座ってよ。」 椅子の上にはクッション。その下には例のアレ。ももが見てない間にこっそり仕込んだのはキャプテン。 茉麻は携帯をいじってるふりをして動画を撮っている。こういう時の連携プレーは見事で笑いを隠しきれない。 「えー、千奈美何にやにやしてるの?もしかしてホントに会えて喜んでるの?」 バカにしたようなももの言葉にいらっとしながらも、これから起きる事の方が楽しみで怒りを静めて椅子に促す。 何も疑わず、ちょっと勢いよく座ったもものお尻から予想してた通り『ブブブブー!』って音が響く。 「ププププ・・・。」 肩を震わせて笑いを堪える茉麻とキャプテン。一瞬何が起こったかわからない表情できょろきょろしているもも。 「うわぁ!ももがおならしたぁ!」 「ちょっと!誰!!こんな事したの!」 ももが立ち上がったと同時にみんなが笑いを堪え切れなくて大きな笑い声が響く。 もももブーブークッションを掴んで一緒に笑う。お腹をかかえて笑って笑って・・・笑いすぎて涙が出てきて。 「千奈美・・・?」 「あー、なんか笑いすぎて涙出てきたよ。」 それが半分くらい嘘なの、きっと伝わってるのにもっと笑ってくれるこの空間が楽しくて。だから笑えるだけ笑った。 ---後日、この動画が茉麻の陰謀で他のメンバーにも送られていて散々いじられたのは言うまでもなかった・・・。 END |
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