ENDLESS LOVE

突然、会いたくなった。

しばらく会っていなかったという程でもないし、なんだかんだ電話もメールもしてるし、ケンカしたわけでも、何かあったわけでもなかった。
それはただ衝動的で、例えば綺麗な景色を好きな人にも見せてあげたいって思うような。そんな気持ちに似ていた。
清々しい程の真っ青な空にキラキラ光る熱い太陽を見てたら、会いたくなってしまった。

学校が終わって、すぐにメールをした。

『今日、家に行ってもいい?勉強の邪魔しないから。相手してくれなくてもいいから。』

そんな内容だったから何かあったと思ったんだろう。
午前中で授業が終わって家にいる舞美ちゃんからすぐに電話がかかってきた。

「どうしたの?何かあった?」

その声を聞いて本気で気にかけてくれてるのがわかって、嬉しくて笑ってしまう。
ああ、勉強放り投げて電話くれたんだろうなぁとか。焦ってる顔が目に浮かんでくる。
愛されてるなぁ、って思う。

「何もないよ。ただ会いたくって・・・。ただ一緒にいられるだけでいいから・・・ダメ?」

ホントは昨日の電話で今日は試験勉強があるから会えないって言われてた。
私も邪魔しちゃいけないから会うつもりはなかった。
でもこの衝動的な気持ちを抑えられなくって、きっとそれは舞美ちゃんにすでに伝わってるだろうし、この気持ちを伝染させてしまっているんだろう。
こんな我儘は困らせるだけだとわかってる、舞美ちゃんが私を構わずに一緒にいる事に罪悪感を感じないわけがない。
そう思ったら、自分の衝動的な気持ちに付き合わせてはいけないと、今になって気がついた。
というか。気づいてたけど、電話の向こうで困惑してる舞美ちゃんがいて、我儘を押し通そうとしてる自分が子供で恥ずかしくなった。


「ごめん。昨日会えないって言ってた・・・」
「あの、ホントゆっくり話とか出来ないけど・・・それでもいい?」

私の言葉を遮るような早口だった。
舞美ちゃんは結局優しすぎて、きっと断ったら私がガッカリするとかそういう風に考えてくれたんだろう。
そして、それを私が断ったら余計に、舞美ちゃんが気にするんだろうと思った。

「うん。今から行くね。」
「待ってる。」

電話を切って、急いで駅へ向かった。
すぐに電車に乗ろうとして、だけどその横に隣接してあるスーパーに立ち寄った。
果物売り場で、アメリカンチェリーを見つけて一番おいしそうなのを手に取った。
きっと会ってすぐごめんって言ったら、舞美ちゃんが気にするんじゃないかと思ったからごめんの代わりにプレゼントしたかった。

いつもは駅まで迎えに来てくれるけど、今日はひとりだった。
舞美ちゃんと一緒に歩く景色をひとりで歩く。まだ慣れない道を歩いていたらおいしそうなパン屋さんや小さい公園や、今まで目に入らなかったものが目に入ってきた。
もしかしたらここのパン屋さんでパン買った事あるのかな?とか、公園で小さい頃遊んでたのかな?とか、思うとそれだけで心があたたかくなった。

家の前に着いて電話をかけたら、すぐにドアを開けてくれた。
会えて嬉しいって顔してたから、ホッとした。困惑してたらどうしようって思ったから。
私の頭を軽く撫でて、手を引いてくれたからそのまま舞美ちゃんの部屋に入った。
机の上には広げられたままのテキストとノート。几帳面に色をつけたりメモされてるのを見るとなんだかとてもかわいらしい。
それには触れずにソファーの上に座ると、舞美ちゃんが何かに気がついたみたいにハッとした顔をした。

「あ、なんか飲み物持ってくるね。」
「大丈夫!お茶買ってきたから。何も気にしなくていいから・・・。」

そういう気遣いも嬉しくて、そして舞美ちゃんらしい。

「あとね、舞美ちゃんの飲み物とアメリカンチェリー買ってきたから後で食べて?」

そう言ってエコバックからごそごそと取り出していたら、手に温かい感触がした。それは舞美ちゃんの手で。
だから取り出すのをやめて、舞美ちゃんの顔を見た。

「好き。」

いつもの穏やかさのない声に切羽詰まったようなものを感じた。
いつも力強いけれど、今日は少し違ってちょっとだけ強引に抱きしめられた。
そのままソファーに押し倒された状態になった。見上げた舞美ちゃんの顔は余裕がなさげだ。

「舞美ちゃん?」

私の声に、我に返ったようにいつもの表情に戻る。
優しく私を抱きかかえて体を起させる。そして困ったように笑う。

「どうしたの?」
「なんか・・・怖くて。」
「何が?」

舞美ちゃんが深呼吸する。

「幸せ、すぎて。」

言ってくれた言葉は嬉しいはずなのに、言葉の真意が掴めなかった。
しっかりと合わせられた目は真剣で言葉が詰まる。

「今まで、人とこんなに近づいた事がなかったから・・・だから、ちょっと怖くて。でも幸せで・・・。」

舞美ちゃんの目の奥が泳いでいたから、私はさらに顔を近づけた。
そうすると少し引かれた。それが悲しかったから舞美ちゃんの体をぎゅっと抱きしめた。

「もっと求めていいんだよ。信じてくれていいんだよ。怖くないから。」

舞美ちゃんの中にまだある『人間不信』はきっと私が思っているよりも、ずっと大きなモノなんだと思う。
背中に回した手をあやすようにとんとんと叩くと、顔が私の肩に乗せられた。

「舞美ちゃんが、好きだよ。」

首筋に唇を当てると、舞美ちゃんのカラダが震えてぎゅっとしがみつかれる。
ついつい、そのまま続きがしたくなってカラダをゆっくりと離した。
舞美ちゃんの表情はいつもの表情に戻っていた。

「愛理、ごめんね・・・私こんなんで・・・。」
「こんなんで、とかじゃない。ありのままの舞美ちゃんでいて欲しい。」

ゆっくりと重なった唇は優しくて少しだけ切なさを連れて来た。
私が舞美ちゃんのそばにいるから大丈夫なんだって何回だって伝えてあげたい。
それは真実で揺るがない事だって、教えてあげたい。

だからずっと、そばにいて。



END