ENDLESS LOVE 下校する前に久々に屋上に来てごろんと寝転んで空を見上げていた。 ずっと目を開けていると眩しいから目を閉じると、聴覚がいつもより敏感になる。 テスト期間という事もあっていつも騒々しいグラウンドは静かで、木々がかさかさと揺れる音がしてなんだか涼しくて心地よい。 ホントは早く帰って時間を惜しんで勉強しなきゃいけなかったけれど、何だか息が詰まっていた。 うっすらと目を開けてみると、空は青くて太陽は近い。手を伸ばしたら届きそうで、両手を空に向ける。 だけど届くはずなどなどなく、何も掴めなかった手は静かに下ろされた。 私は再び、目を閉じた。 ・・・顔を伝う汗の動きで目が覚めた。 いつの間にか寝ていたみたいで時計を見るともう17時を過ぎていた。 慌てて体を起こしたらふらふらっとして・・・頭の中がぐるぐるし出した。 暑い日差しにずっと当たっていたせいか、喉も異常に乾いていた。 鞄の中からぬるくなったお茶を取り出してごくごくと一気に飲んでみたけれど、やっぱりまだ頭がぐるぐるしていてちょっとだけ気持ち悪い。 ボーっと空を見上げるとまだまだ太陽は元気だ。 早く帰らなきゃ・・・と立ち上がってみようとするけど、足が全く立とうとしてくれない。 ここには誰もいない。自分でどうにかするしかない。 そう思って思い切って立ち上がってみた。だけどすっと立つ事が出来ずふらふら足が揺れてそばにあった壁に手をついた。 暑さだけのせいじゃない汗が流れてくる。 そのままの姿勢で深呼吸して、思い浮かんだ事を実行しようかどうか迷っていた。 だけどきっともうそれしか方法は思い浮かばなかった。 携帯を取り出して電話をかけた。 出た瞬間、私の名を呼ぶ声が優しくて体にしみ込んできて、泣きだしそうになった。 「愛理?おーい!」 声を発せずにいると、舞美ちゃんが私をさらに呼び続ける。 ああ、なんかこのまま舞美ちゃんの声を聞いて倒れちゃってもいいかな・・・なんて思えちゃう。 息苦しくなって、息が上がる。 「愛理っ!どうしたの?愛理!」 呼吸の早さに気がついた舞美ちゃんの声に心配の色が混ざる。 幸せだなぁ・・・なんて思っちゃって、私はそのままゆっくりと寝転んだ。 「舞美ちゃん。好き。」 声にならない音だった。それなのにしっかりと聞き取った舞美ちゃんが電話の向こうで頷いているのがわかった。 かわいいなと思ったら顔がにやけた。 「愛理・・・どこにいるの?具合悪い?」 「屋・・・上。舞美ちゃん、来て?」 そう呟いたら電話の向こうでドタドタと騒がしい音がして、それが舞美ちゃんの足音だと気がついた時にはもうすでに外にいるらしかった。 電話越しに車のエンジン音が聞こえた。 「もう駅に着くから!もう少し待ってて!何かあったらすぐ電話して!」 「舞美ちゃん・・・ごめんね・・・。」 そう言って返事を聞かずに電話を切った。 舞美ちゃん、ごめんね。テストで忙しいのに、この前もわがまま言って会ってもらったのに。 ごめんね・・・。 寝転んだアスファルトがちょうど日陰でよかった。ひんやりとして気持ちよくて頬を当てた。 頬を伝ってアスファルトに落ちた水滴が汗なのか涙なのか、わからなかった。 それからどのくらい時間が経ったのかわからなかったけれど、ドアが開かれた音が聞こえて舞美ちゃんが来てくれたんだとわかった。 嬉しさと申し訳なさで今更合わす顔がないだなんて思ってしまって顔を伏せたままでいると、すぐそばに舞美ちゃんの気配がした。 「愛理っ!」 どんな力加減で触れていいのかわかんない、と言ったような手つきで私の背中に触れた。 暑いのとは違う、熱さが優しい。 「あっ!今、お水買ってくるから!ちょっと待ってて!」 舞美ちゃんの手が私から離れた。それがひどく寂しい。 だから今にも走り出そうとしていた舞美ちゃんの手を掴んだ。 「行かないで、そばにいて。」 「愛理・・・。」 やっと顔を上げて舞美ちゃんを見た。 髪はぼさぼさで汗かいてて、部屋着のまま来たのかちょっと大きめなTシャツにジャージ。 愛おしくて仕方ない。 両手を伸ばすと、舞美ちゃんががっしりと抱きしめてくれて、私のカラダは簡単に舞美ちゃんの中に収まった。 さっきは何も掴めなくて下げた手は、舞美ちゃんに触れている。 優しく背中をさすったりとんとんしてくれて、ホントに私を大事に大事に。泣いたら心配するだろうから胸の奥からつんと沸き上がるものを抑えた。 しばらくそうされていたら、気持ち悪さもなくなった。 顔が見れる距離だけカラダを離すと、優しい顔して私を見る舞美ちゃんと目が合った。 何度でも恋をする、あの時思った事がまた浮かんでくる。舞美ちゃんが、好き。 「少しはよくなった?」 「うん・・・ありがとう。」 すとん、と舞美ちゃんの肩に頭を乗せたら、抱えるように頭を引き寄せられる。 そして反対側の手でジャージのポケットに手を入れてハンドタオルを取り出した。 「汗、拭いてあげるね。」 自分の汗だってすごいのに、優しい手つきで私の汗を拭き取っていく。 顔を拭かれて、それから制服の裾から手が入ってきて、背中も。下着に触れた時、ちょっと手つきが動揺してたのがかわいかった。 少しカラダを離されて前も・・・そこに触れないように緊張してるのが伝わってきて、そう思うとこんな時なのに熱が、上がる。 だって、いろんなところ触られたし。 お腹を拭き終えて制服の中から出そうとした舞美ちゃんの手を掴む。舞美ちゃんのカラダが驚いたように震えた。 その手を掴んで、背中に回させる。手のひらを背中にぺたりと当てると直の体温が気持ちいい。 「あ、愛理っ。」 「直接、触られたい。」 同じように舞美ちゃんのTシャツのすそから手を入れてカラダに直に触れた。 「あっ、汗すごいから・・・」って言う言葉を唇で塞ぐと、すぐに舞美ちゃんから甘い息が漏れた。 背骨をなぞったり腰の線を確かめていると、舞美ちゃんの声が色づいた。 「止まれなく、なるから。」 ぐいっと肩を押されてカラダが離れた。舞美ちゃんは顔を赤くして俯いて困惑した表情をしていた。 困らせてばかりだな、と気がついて悲しくなった。 学校内をふたりで歩くのは人目が気になった。 でもさすがにこんな時間に残ってる人も少なくて、なんとか誰にも合わずに学校を抜け出せた。 舞美ちゃんは気にしないって言ってくれたけど、私はまだ。 それくらい、舞美ちゃんのモテ度は高い。自覚してるくせに無自覚なんだ、そういうところ嫌いじゃないけど。 学校から少し離れると、手を伸ばして舞美ちゃんの手をぎゅっと握った。 そしたらしっかりとした強さで握り返されて、嬉しそうにぶんぶん腕を振る。子供みたいだ。 さっきまであんなだったのに。かわいすぎて頬が緩む。まったりと幸せだなぁって思う。 家の前まで送ってもらう。つないだ手が離せない。 「少し、寄っていく?」 うーん・・・って眉間にしわが寄る。 きっと断るのも申し訳ないとかでも勉強しなきゃとか、そういう事を考えて頭の中ぐるぐるしてるんだろうなぁ。 寄りやすく断りやすいように、少しという言葉を付けたんだけど、いつも全力な舞美ちゃんには伝わってないんだろうなぁ。 「ん・・・今日はこのまま帰ろうかな・・・。」 「うん、今日はごめんね。」 舞美ちゃんの申し訳ない顔が見たくなくって、笑ってみせる。するとやっぱりつられて舞美ちゃんが笑ってくれた。 手を離す前にカラダを寄せて耳元に唇を寄せた。 舞美ちゃんが少しかがんでくれたから、その耳にしか届かない声で、告げた。 「テスト終わったら、お泊りしようね。」 その意味を理解して慌てて「う、うっ、うん!」ってどもっちゃってホントは今すぐどうにかしたいくらい、かわいい。 それまでおあずけ、そう言って手を離した。 ぬくもりがなくなってひどく寂しく思ったけど、頑張れる気がした。 END |
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