ENDLESS LOVE あれから携帯の番号くらいは交換した。 だけど、メールだって毎日来るわけじゃないし、電話だって数える程。 あの日の、あの矢島先輩とのやりとりが現実じゃなかったように思えたりもした。 私を好きだなんて・・・だったらもっと電話やメールくれてもいいはずだし、会いたがってもいいはずだし。 私と言えば、携帯を見る回数が増えた。心のどっかでこうやって期待してるのが悔しくもあり認めたくもなく。 悶々とした毎日を送っていた。なんかムカつくし。 今日は誕生日だった。4月生まれだからか、今まであんまり友達にお祝いしてもらった事がない。 新しい環境だと、なおさら。まだ、誕生日を祝い合う程の友達が出来ていないからだ。 そんな私の気持ちを知ってか、お母さんが「ごちそう作って待ってるから早く帰っておいで」って言ってくれた。 そうするはずだった、つい、さっきまでは。 学校が終わって、みんなと適当に挨拶を交わして、携帯を開いた。 着信とメールが1件ずつ来ていた。 それは、矢島先輩からだった。 『学校終わったらデートしよう。学校近くの駅で待ってる』 多分、学校まで来ないのは、騒ぎになるから。そこまでは考えれているんだと思う。 でもだからって学校近くの駅じゃ・・・結局騒ぎになるに決まってる。 私は校門を出て慌てて電話をした。 「愛理ー。メール見てくれた?」 能天気な声が気に障る。 「先輩・・・駅なんかにいたら、これから下校する人達たくさん通りますよ?」 「あっ・・・。」 普段は綺麗でかっこいいのに、どうしてこう天然なんだろう。それも最近知った事なんだけど。 「駅の近くに小さな公園があるから・・・そこにいてください。」 「う、うんっ!」 素直に頷く矢島先輩がかわいく思えて、私は急いで駅に向かった。 ◇◇◇ 公園に着くと、矢島先輩はブランコを子供のように揺らしていた。 そういう、無邪気なところを見るたびに、知るたびに、こうしてあったかい気持ちになるの、知ってるだろうか。 遠くから見てるだけだった、そしてたいした知らなかった人が。いつのまにか心の中に入り込んできた喜びを。 矢島先輩が私に気がついてブランコを止めて手を振る。 その笑顔にドキドキするの、まだ認めたくなかった。 「来てくれてありがとう。」 「あの、何か用事ですか?」 「愛理、今日・・・誕生日って知って・・・。今日、デートしてくれないかな。」 「・・・どうやって知ったんですか?」 「えーと・・・えっとぉ・・・。いろいろな情報網から・・・。」 矢島先輩の目が思いっきりわかりやすく、泳ぐ。 おかしくって思わず吹き出したら、矢島先輩はきょとんとした顔して私を見た。 人を好きになったら、誕生日とかそういうの調べたりしたなーって思い出して、それを矢島先輩がしてると思ったらおかしかった。 「あのね・・・。友達が調べてくれてね・・・勝手にそんな事してごめんっ。」 目の前で両手を合わせて、まるで私を拝むようにして謝る。 「でも今日は、ちょっと・・・。」 別に用事なんてないのに、そうやって思わせぶりな事を言ってしまう。 帰ったらちょっとだけ寝て、それからごちそうを食べるだけなはずなのに。 ほらでもお母さん、早く帰っておいでって・・・。 矢島先輩は、私が思っていた以上に落胆した表情をしていた。 悪かったかな、と思ったけど、今更用事ないよなんて言えない自分がなんてかわいくないんだろうと思う。 「そう、だよね。誕生日当日にデートしようなんて。ごめんね。来てくれただけでも嬉しいよ。」 無理して笑ってるんだろうか。笑っているのに表情は固い。 ここまで近くに寄って初めて気がついた事。ホントに真っ直ぐで不器用でわかりやすい人。 「じゃあ・・・少しだけ、なら。」 ほら、そう言っただけでパーッと笑顔になるの。それはさっきの無理してる笑顔じゃなくって、心からの笑顔。 そういうところが、いちいち私の心を刺激するの、困っちゃう。 私は空いてるブランコに座った。矢島先輩はいろいろな話をしてくれた。 ドジをした話とか、学校の話とか、愛犬の話とか。 知らなかった矢島先輩の事が一気にたくさん知れた気がした。 芸能人みたいに手が届かなくて、完璧に見えていたのに、実はこんなにも人間っぽくって、私と何ら違わない。 そのギャップが、どんどん私をのめり込ませようとする。 『知ってくれないかな』 その言葉に頷けたように、私はもっともっと知りたくなっている。 知っていく度に、気持ちがやんわりと優しくなる。 話だけじゃなく、そういう姿を近くで感じていたいとさえ、思った。 「あ、そういえば・・・時間、大丈夫?」 さっきよりも冷たくなった風がひゅるひゅると音を立てて、私達の間を通り抜けていった。 話し始めてから1時間経っていた。あっという間すぎて、時間の早さに驚いた。 「時間割いてくれて、ありがとう。」 ぴょん、っと矢島先輩がブランコから飛び降りた。 そして大きく空に向かって伸びをする。 その背中が綺麗で、抱きしめて崩してやりたくなった。 すっと立ち上がって、その背中に近づいた。矢島先輩は気づかない。 だけど、抱きつく事が出来なくって・・・代わりに背中にとん、と顔をくっつけた。 「あ、愛理?」 遠慮してその体勢から動けなくなった先輩がかわいい。 ばんざいした格好のまま、どうしていいかわからないのか「どうしたの?」とかそんな事をずっと言ってる。私は黙ってる。 「そっち、向いてもいい?」 「矢島先輩、プレゼントください。」 「あ・・・それが。えっと・・・。知ったばっかりで用意してなくって・・・。」 ごめん、きっとそう続くだろう言葉を止めたくて、私はぎゅっと抱きついた。 「えっ」って声が聞こえて、それを無視して私はプレゼントをねだった。 「家の近くの駅まで一緒に帰ってくれませんか?」 背中越しに見えた夕日が綺麗だった。 先輩が固まったままゆっくりと振り向いた。 見えた顔が赤いのは、夕日のせいなんかじゃなかった。 「もう少し、一緒にいてください。」 この言葉が唯一今日言えた、素直な感情だったのかもしれない。 矢島先輩がふわりと笑って、優しく私の手を握った。 「うん!一緒に帰ろ。」 この手に引かれてどこまでも歩きたいなんて思っちゃった。でもそんな事言わない。 言わなくても嬉しそうに照れくさそうにしてる矢島先輩が横にいる。 いつかは、ちゃんとそういう事言ったりするんだろうか。 これから先の事を思うと、期待しちゃって眠れなかったりするのかな。 「来年はさ、デートしようね。予約ね。」 「どうしようかなぁ。」 わざとそう言うと頬を膨らませて繋いだ手をぶんぶん振った。 子供みたいでかわいい、でもそれも言わない。 その分、少し強く手を握ったら急に腕がおとなしくなった。 たった1時間。それだけでもこんなに嬉しい誕生日はなかったんじゃないかとさえ思っちゃう。 きっとすでに、恋に落ちているんだろう。だけどまだもう少し、ここままでいさせて。 END |
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