ENDLESS LOVE



引っ越しの日の朝は空がどんよりとしていて結構な雨が降っていた。
舞美ちゃんらしいなと思ってふと笑みが漏れる。
手伝わなくてもいいよって言ってくれたけどやっぱり引っ越し初日に行きたくてお泊りの準備は昨日のうちに終えていた。
最寄駅に着くとすでに舞美ちゃんが待っていた。
私を見つけるといつもように手をぶんぶん振って駆け寄ってくる。その姿は何年経っても変わらない。
そしてすっと傘を差し出した舞美ちゃんに寄り添ってひとつの傘で駅から5分の歩き慣れない道を歩く。
ちょっとした飲食店があって公園があってコンビニがあって便利でいいね、なんて言っていると舞美ちゃんの家に着いた。
舞美ちゃんがちょっと照れ臭そうにドアを開く。
先に入っていいよって背中を押されて入ると見慣れない玄関に見慣れた舞美ちゃんのスニーカーがあって思わず笑顔が漏れる。
部屋に入るとまだダンボールだらけだけど家具はほぼ設置されていた。

「ごめんね、まだ全然片付いてなくって。」
「ううん。一緒に片つけよう?」

思わず腕まくりとした私を見て舞美ちゃんも笑って腕まくりをする。
それからふたりで話しながら一緒に置く場所を決めたりこんなもの持ってるんだなぁって思ったり。
ダンボールを開けるたびにする舞美ちゃんの匂いが嬉しくてくんくんってしてたらそれに気が付いた舞美に変態って言われたりして。
でもね、こんな事出来るのもこんな事が嬉しいの私しかいなんだよ。

日が暮れてきて舞美ちゃんがカーテンを設置して電気を点けたところで今日はもう終わりにする事になった。
もうほぼ片付いた部屋は部屋らしくなって一緒に並べたり飾ったりしただけなのにふたりの新居のような気持ちになった。

「おなかすいたね!どっか食べに行こうか?駅前にお店あったよね?」

舞美ちゃんはよっぽどお腹が減ったのかお腹を撫でながら私に笑いかける。

「あ、あのね。今日そば作ろうと思って持ってきたんだ!」

この日の為にお母さんに教えてもらって何度か作ったレシピはもう頭の中にしっかりと記憶していた。
舞美は私の言葉を聞いてぱーっと目を細めて笑う。

「愛理が作ってくれるの?嬉しい。」

本当に嬉しそうに幸せそうに喜んでくれる舞美ちゃんが好きで、胸の奥が嬉しくて疼く。
手伝うって言ってくれた舞美ちゃんを疲れてるだろうからソファーで待っててねと言い、慣れないながらも作っていると舞美ちゃんが静かになる。
どうやら眠ってしまったようで、その姿に何だか安心した。
ようやく作り終えてテーブルに運ぶとその匂いに反応したのか舞美ちゃんが起きる。

「ごめん、寝ちゃったね。」
「ううん、すぐ食べれる?」
「うん!おいしそう!いただきまーす!」

愛理おいしいよ、って何度も何度も言いながら食べてくれる舞美ちゃんを見て作ってよかったなと思う。
それと同時にふと気になった箸。

「ね、舞美ちゃん・・・?箸・・・今度持ってきて置いて行ってもいい・・・?」
「ん?いいよ?」
「あと、歯ブラシとかパジャマとか・・・お泊りセットじゃなくて・・・ここに置いていってもいい・・・?」

同棲じゃないのはわかってる。ここは舞美ちゃんの家だけど。
私の箸は割りばしで。歯ブラシもパジャマも持参で。でもこれってわがままなのかな。
急に込み上げてきた寂しさが心を支配する。
舞美ちゃんの家に友達だって来るだろう。そこに私のものが増えて行くと・・・やっぱり迷惑かな。

「いいよ?置いてって欲しいな。」

視線を上げるといつものように目を細めて笑って私を見る舞美ちゃんがいた。

「迷惑じゃない?」
「嬉しいよ?愛理の事いなくても感じれるの嬉しい。」

最後は恥ずかしそうに早口になって慌ててそばを食べる。
ホントに迷惑だなんて思ってない事、嬉しいと思っている事がわかって込み上げていた寂しさはもう消えていて。

「じゃあ、明日買いに行ってもいい?」
「うん!」

どこ行こうかなぁって人差し指を顎に当てて首を傾げて考えてる舞美ちゃんの指を取る。
その指を撫でていると舞美ちゃんは無意識に息を吐く。それに驚いて舞美ちゃんが口を手で覆う。

「続きは食べたら、ね?」

唇を一瞬重ねると驚いた顔をした舞美ちゃんに今すぐに触れたくなって私はちょっとだけ急いでそばを食べた。
そんな私を見て舞美ちゃんも急に静かになってちょっとだけ急いでそばを食べ始めた。



END