ENDLESS LOVE ---どうせだったら一緒の学校行ってる間にこうなって欲しかった。 先生の声が言葉じゃなくてただの音になり、私は机に頬杖をついてグラウンドをぼんやりと眺めていた。 中学の時から、席替えをしても窓際のしかも後ろの方に当たる事が多かった。だから今までこうして何度も外を眺めてきた。 同じ景色なのに飽きなかったのは、時々矢島先輩が走るのを見れたから、だ。 その時は矢島先輩にそんなに、というかほとんど興味はなかった。 だけど、走る姿だけは心を奪われるものがあった。 スピードと一体化してる体がとても凛として綺麗だった。 走ってる姿を見ると、爽快感のようなものが自分にも湧き上がった。 みんなはただキャーキャー見ている中、たいして興味なさそうに見てた私を、矢島先輩がその頃から見ていたなんて、思いもしなかった。 目が合う事もなかったし、話した事もなかった。それなのに。 これから何度こんな風にグラウンドを見ても、矢島先輩を見る事は出来ない。 知りたい、と思った途端こんなタイミング悪い事なんかないと思う。 今まで見放題・・・って言ったら安っぽいけど、でも同じ学校だから見る事も会う事も知る事も、今より簡単に出来たのに。 ---今頃、何してる、かな。 少しずつこうして考える事が増えてきた。少しずつこうして心の中を占める割合が増えてきた。 今までめんどくさいって思ってたこういう気持ちが、今はとても楽しくてわくわくしてる。 それが自分自身意外だと思う。だけどこういうの悪くないって思った。 ◇◇◇ 「愛理ぃ。」 駅に着いたら矢島先輩から電話が来た。 「どうしたんですか?」 「ちょっと、会えないかな?」 これから帰るだけだし、夜ご飯まではまだ少し時間があった。 「愛理が降りる駅で待ってるね」そう言う先輩の声が少し沈んでいるように感じた。 何があったのかわからないけれど、何となく心配で、私はすぐにホームに駆け込んで電車に乗った。 流れる景色を見ながらもどかしく思う。いつもより電車の速さが遅く感じた。もどかしい。 何度も時計を見ては、景色を見る。そんな繰り返しを何度かしてやっと、駅に着いた。 降りて急いで電話をしようとしたら、目の前のベンチにぽつんと座ってる矢島先輩がいた。 「愛理。」 矢島先輩が立ち上がり私に駆け寄る。思わず抱きしめたくなった衝動が全身を襲ったけど、ぐっと堪えた。 そんな衝動に驚く。自分が思ってる以上に、気持ちが大きくなっている事実に。 「急に呼び出してごめんね。」 寂しそうに困ったように笑う矢島先輩を初めて見た気がした。 いつも太陽キラキラみたいな、そんな笑顔ばかり見てたような気がする。 いや、ただそんな顔を今まで私が知らなかっただけなんだろう。 私がううん、って首を横に振ると、その笑顔は一層寂しそうになる。 矢島先輩の手がゆっくりと動いて、私の手に触れた。 そしてそのまま引っ張られてさっきまで先輩が座ってたベンチに座らされた。 座った途端、繋がれていた手は離れて、私はそれを名残惜しいと思った。 「なんか、なんかね。」 矢島先輩が少し早口で話し出す。 そんな焦らなくても逃げたりしないのに、って思うとなんだかかわいく思えて思わず笑ったら、矢島先輩はつられて笑う。 「愛理、何で笑うの?」 「先輩、かわいいなって。」 「え?」 たまには正直に伝えてもいいのかなと思う。 今までこんな事言った事なかったからか、矢島先輩の顔が見る見る赤くなっていく。 「いや・・・えっと・・・ありがとう。」 かわいいなんて言葉、何度も何度も言われてきただろう矢島先輩がこんな風に照れる姿を見れるのは私だけなんだと思うと、切なくて嬉しくなる。 「それで、どうしたんですか?」 「あの・・・あのね。」 矢島先輩が声を潜める。ぼそぼそ言われてよくわかんないから耳を近づけた。 少しだけ触れた体の片側に妙に神経が行った。 「愛理がいなくて寂しくなって。」 今度は私が顔を赤くさせる番だった。自分でも見る見る赤くなるのがわかった。 心から体から湧き上がった熱が全部、顔に集中しちゃったんじゃないかってくらいに、熱い。 「今頃、何してるかなとか思って。今までは学校一緒だったから・・・その、時々見たり出来たけど・・・あ、でもなんかストーカーっぽいよね・・・。えっと・・・。」 自分で何言ってるのかわかんなくなっちゃった矢島先輩は更に焦ってわたわたしてる。 ---なーんだ。先輩も私と同じ事思ってたんだ。 それがわかって少し余裕が出た。 まだ余裕なくひとり言のように何か呟いてる矢島先輩の手にそっと触れた。 先輩の唇の動きが止まる。私の顔を驚いたように見つめる。 「愛、理?」 「先輩、ホント私の事好きなんだから。」 そう言うと、ぶんぶん思いっきり首を縦に振る。 今までの矢島先輩の印象と全然違う、そんなかわいい姿はホントにずるいと思う。 もっともっとたくさん教えて。たくさん見せて。 「私も同じ事、思ってました。」 だから正直にそう伝えた。 矢島先輩が驚いた表情で私を見る。さすがにちょっと恥ずかしくて俯いて繋がれたままの手を見る。 指を絡ませたら、急に心臓が跳ねた。でも今はそれが何かわからないでいた。 「時々・・・こうして愛理に会いに来てもいい?」 遠慮がちにそう言われる。優しくてもどかしい。 「会いに来てください。」 それでやっと矢島先輩が太陽のようにキラキラ笑ってくれたから。私も嬉しくて笑った。 なかなか繋いだ手が離せなかった。こんな気持ち、初めてだった。 END |
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