ENDLESS LOVE

噂話なんて。
その中にどれだけの真実があって、どれだけの嘘があるのか。



『昨日、矢島先輩が誰かと手をつないで歩いてたらしいよ』

◇◇◇

昨日は電話もメールも確かに来なかった。

あの日以来、結構頻繁にメールや電話が来るようになった。
呼び方も変わった。呼び捨てで呼んでって言われたけどさすがに無理で、初めて「舞美ちゃん」って呼んだ時は恥ずかしくて顔がすごく熱くなった。
敬語も無くして欲しいって言われて、ぎこちないけどなるべく使わないようにした。
舞美ちゃんはそれがすごく嬉しいらしく、会話も前より弾むようになった。
なんだか付き合い始めみたいな気分でいたけれど、でもまだそういう関係じゃなかった。
ホントはもう好きだし、付き合おうって言われたら断らないと思う。
だけどまだ自分からは言い出す勇気もなくて、舞美ちゃんもそういう話は一切してこなかった。
今の関係にも結構満足してるっていうのもあった。毎日が穏やかで。
そして、自惚れみたいだけど舞美ちゃんが私を大切に好きで居てくれる事が柔らかくて幸せだった。
だから急いで付き合う気もなかった。

学校が終わって、私は屋上に向かった。
案の定誰もいない事にホッとして、いつもの定位置にぺたんと座り込んだ。
そう言えばここで。私と舞美ちゃんが出会ったんだと思うと、より一層この屋上が特別な場所に思えた。
鞄から携帯を取り出すと、メールが1件来ていた。
急いでメールを開くと、それは舞美ちゃんからではなかった。
長い溜息が洩れた。ぱたんと携帯を閉じた。
そのまま仰向けに寝転んだ。空が青くて気持ちがいい。
目を閉じたら、浮かんでくるのは舞美ちゃんだった。

---がちゃ。

ドアノブが回される音がして、私はあの時と同じように死角に隠れた。
そこからそっと、その人物を見ようとした。だけど誰かがいると思われたそこにはすでに誰もいなかった。
おかしいな、と思って少し身を乗り出した時だった。

「愛理。」

後ろから声がした。私がよく知っている、声。
振り返った先には舞美ちゃんが優しい顔で笑っていた。

「舞美、ちゃん・・・。」
「えへへ。来ちゃった。」
「誰にも見つからなかったの?」
「変装して来たから。」

そう言って舞美ちゃんが得意げにマスクとニット帽とメガネを見せた。

「怪しい人だと思われたのか、バレなかったけどすごい見られた。」

悪戯っ子みたいに笑う、そういう無邪気なところがすごく好きで。
私は舞美ちゃんの胸に思いっきり飛び込んだ。
驚いて少しだけ舞美ちゃんがよろめいたけど、がっしりと受け止めてくれた。

「愛理?どうしたの?」
「会いたかった。」

普段なら恥ずかしくて思っても言えない言葉がすんなりと吐き出された。
言ってしまえば、気持ちをもっと吐き出したくなる。
よしよしって頭を撫でられて、ぎゅうって力を込めて抱きしめられた。そんな抱擁は初めてだった。
心臓がドキドキうるさい。舞美ちゃんの息が首筋にかかる。
その熱さが私と同じくらい熱いといいと思う。

「私も、会いたかった。」

その言葉に嘘や誤魔化しなんて一切感じなかった。
舞美ちゃんは不器用だ。そして真っ直ぐで。そんな人が器用に別の誰かにこんな愛情を注いでるとはとても思えなかった。
体を離して舞美ちゃんの顔を見ると、その顔は真っ赤だ。私も同じように真っ赤なんだろう。
それが嬉しくて笑うと、舞美ちゃんも笑った。
そのままで、何でもないように聞いた。

「昨日舞美ちゃん、何してた?」
「昨日?えっとー・・・。」

舞美ちゃんは顎に人差し指を当てて考えている。
その姿に慌ててる様子もない。

「あ、昨日は大学の友達と買い物してた。」
「友達?」
「うん、最近仲良くなったんだー。」

そう言う舞美ちゃんがあまりに嬉しそうだったから、今まで感じた事のない感情が胸の奥から顔を出した。

「その人と・・・手、つないでた?」

それは嫉妬だ、と言い終わって気がつく。
舞美ちゃんと付き合ってもいないのに、そんな気持ち持っちゃいけない。
だけど明らかに嫉妬という感情が体中を支配してる。
でも、舞美ちゃんは一切表情を崩さなかった。

「手?つないでないよ?っていうか、つなぐなら愛理とつなぎたいな。」

照れてそう言った後に、背中に回されていた手が外されて、同時に私の両手が舞美ちゃんの手に包み込まれた。
ああ、この人ってホントに。不器用で鈍感だ。
あんなにかっこよく走るくせに。あんなにモテるくせに。
指と指を絡めてみたら、愛おしい感情が私を襲う。
そのまま引き寄せて顔を近づけた。驚いた舞美ちゃんの顔がすぐそばにあった。
私は目を閉じて、私は舞美ちゃんの頬に、そっと口づけた。
柔らかくて少し熱いくらいの頬の熱が伝わった。手で触るよりもずっと敏感に。

「あ、愛理。」
「好き。」

自分から言うなんて思ってもいなかった。だけど思うよりも先に言葉が出た。
舞美ちゃんは私を痛いくらいに強く抱きしめた。でもその痛さも嬉しい。

「私で、いいの?」

自信なさげに揺れる表情がとても綺麗で、ゆっくりと頷いて見せたらその表情は穏やかなものに変わった。

「愛理が好きだよ。」

ゆっくりと近づいてきた顔に目を閉じると、さっきとはまた違う柔らかい感触。
格段に甘くて優しくて、何度も何度も唇に触れた。
体も離したくなくて、服をぎゅっと握ると更に力を込めて抱きしめられた。
舞美ちゃんのにおいと味しかしない。もっともっと欲しくなる。
夢中になって触れてたら、息苦しくなって自然に唇が離れた。
舞美ちゃんが照れて笑って、おでこを合わせてきた。
すぐそばにさっきまで触れていた唇が見えた。そこに触れたんだと思うと恥ずかしくてだけど嬉しい。

「今度、手をつないでデートしてくれる?」

その言葉に頷くと、また唇が重なった。
ホントはもっと前からすでに私はこの人に夢中だったんだと知った。
もっと夢中にさせて欲しい。そしてもっと私に夢中になって欲しい。
これから先も、ずっと。こんな風に。



END