ENDLESS LOVE 「今から愛理の家行くから!」 幼馴染の桃から電話が来て、それだけ言われて電話が切れて・・・そのまま寝ていたら、しばらくして。 勝手に誰かが部屋のドアを開けてどかどかと入ってきた。 相手が誰かわかってるからそのまま眠っていたら、ベッドの上からテンションの高いの声が降ってきた。 「ちょっとぉ、愛理起きてよぉ。」 「うーん・・・。」 仕方なく毛布から顔を出すと、朝から元気いっぱいの笑顔を輝かせてる桃と目が合った。 「ね、舞美と付き合ってるってホント?」 「へぇっ!?」 舞美・・・という言葉に正直に体が反応して、気がついたらガバっと飛び跳ねるように起き上がって、何故かベッドの上で正座をしている私。 急にどくどくと心臓の音が体中に響いて、それを感じた瞬間体が熱くなった。 顔が真っ赤になった事に、そして動揺している事に、気づいただろう。 私の反応を見て、桃は「ホントなんだ・・・」と呟いた。 「っていうか、どうして舞美ちゃん・・・。」 「私、舞美と友達なんだ。高校の時から。」 「う、そ。」 それは知らなかった・・・けど。確かに学年も一緒だし高校も一緒だ。不思議な事じゃないけど、だけど思ってもいない事だった。 寝起きは不機嫌な私も、さすがに朝からしかも思いもしない人から舞美ちゃんの名前を出されて、変に意識が覚醒されて動揺してる。 「でも、今まで愛理の口から舞美の名前出てこなかったから、びっくりしたよ。愛理も意外とミーハーなんだね。」 ミーハーって言葉の選択はどうかと思ったけどこの際どうでもいい。 桃はベッドの縁に腰を掛けてひとりでうんうん、って納得するように頷いてる。 誰だって思うだろう。舞美ちゃんを好きだって事はたくさんの人達と同じようにキャーキャー騒いでた、と。 私、そんなんじゃない、のに。そんな風に舞美ちゃん見て騒いだ事ない、のに。 悔しさに似ていてでも違っていて、悲しみにに似てるけどでも違う、わけのわからない感情が胸の中をぐるぐる渦巻く。 思わず眉間にしわが寄っていて、それを伸ばすように桃の手が伸びてきた。 その顔は不思議そうで、きっとわかってないんだろうなって思う。 わかって欲しいわけじゃない。私と舞美ちゃんがわかっていればそれでいいんだと思う。でも反面、ちょっと複雑な気持ちもあった。 「でも、相手が愛理で安心したー。舞美はさ、結構人間不信?に陥っちゃったりしてちょっと心配だったから。」 「・・・人間不信?」 「ほら、みんな舞美見てキャーキャー言ってたから。ちょっとね・・・って愛理も・・・」 「ち、違うっ!」 違う。私、そんなんじゃ・・・。 思わず感情的になり大きくなった声で、桃が驚いて目を見開いて私を見た。 普段、私が声を荒げる事が滅多にない事を知っているからだろう。ホントに驚いてる表情で思わずハッとした。 「あ、愛理?」 「ごめん。」 寝て起きてすぐにこんな話できっと頭の中がまだ覚めてない。 寝起きじゃなかったらもっと冷静に受け止めてうまく話が出来たと思う。 「舞美と・・・うまくいってない?」 その言葉にぶんぶんと首を横に振った。そんな事は決してない。 ただ、舞美ちゃんを好きだと言う事はみんなにはそういう目で見られちゃうって事が少しだけ悲しかった。 桃がそう思うくらいだから、きっと他の人に言ってもそうなんだろう。 「ならいいんだけど・・・。」 桃が少し気を使っているのがわかった。優しく頭を撫でられた。 桃が悪いわけじゃない。話せばきっとわかってくれる。私の事も舞美ちゃんの事も知っているんだし。 でも言うより先に、舞美ちゃんに会いたかった。 「じゃあ、帰るね。」 何となく後味の悪い空気を残したまま、桃はいつもでは考えられないくらいの静けさで帰っていった。 ぱたんと扉が閉められ、遠くで桃がお母さんに挨拶している声を聞きながら私は舞美ちゃんを想った。 まだ、寝てるだろうか。 でも無性に声が聞きたい、会いたい、ぬくもりに触れたい。 想いが溢れてきて止まらない。 携帯を手に取るとまだ8時過ぎだった。 昨日電話した時に夜遅くまで勉強する予定だと言っていた。いくら舞美ちゃんでも休日だし寝てるだろう。 でも止まらない想いと躊躇の間で揺れる気持ちを受け止めてくれるのは舞美ちゃんしかいない。 迷惑だと思っていても止まらなかった。 リダイアルから舞美ちゃんの番号を呼び出して、通話ボタンを押した。 普段電話してるのに、初めてみたいに緊張した。指が震えてそれが自分でもおかしかった。 数回コール音が鳴った後、舞美ちゃんの声が聞こえてきた。 「ん・・・愛理ぃ・・・。」 明らかに寝ぼけている声がして、やっぱり寝ていたんだと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 自分のわがままさに呆れて、そのまま電話を切ってしまいたくなった。 「起こして・・・ごめんなさい。」 やっとの思いでそう言うと、電話の向こうでシーツの擦れた音と舞美ちゃんの息の音が聞こえた。 「うん?大丈夫だよ・・・朝一番に愛理の声聞けて嬉しい。」 そんな事言うから・・・溢れた想いが涙になってこぼれて落ちた。 悟られないようにと思ったのに、鼻をすすったらそれが意外にも大きな音になって電話の向こうに伝わってしまった。 「愛理?泣いてる、の?」 「違うの・・・。」 「愛理?違うって・・・何が?」 優しくて愛おしい人の声を聞いてこんな風になる自分に戸惑いと、だけど止められないもの。 自分の返答がおかしかった事にも気づけなくて声を出せずにいると、電話の向こうで私の名前を何度も呼ぶ愛しい声が聞こえた。 「今から、会いに行ってもいい?」 何も答えない私に、優しく響く声。 会いたい。でもいいんだろうか。 こんなわがままをしているのになお、私はまだ素直になれない。 「迷惑かけちゃうから・・・ごめんなさい。」 そう言って思わず電話を切ってしまった。 寂しさは声を聞いた分大きくなり、電話を切ってしまった分自己嫌悪に陥った。 何、してるんだろう・・・。 そのままベッドにもぐり込んで頭まで毛布を被った。 光などない暗闇の中、それは自分の気持ちを表しているみたいだった。 END |
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