ENDLESS LOVE

暗闇の中で必死に光を求めて出口を探していた。
歩いてももがいても、救われないような気がした。
今までひとりで平気だったのに。隣に舞美ちゃんが居ない事がどうしようもなく、寂しい。

暗闇から救ってくれるのは舞美ちゃんしかいなくて、きっと救い出してくれる、そんな気がしていた。

◇◇◇

目が覚めるとまだ私は暗闇の中にいた。
息苦しくて毛布を勢いよくめくると急に眩しい光に出会う。
目が慣れなくてゆっくりと瞬きをしていると、視界の隅に何かが見えて今度は焦点を合わせてみた。
そこには、テーブルにうつ伏せになって眠っている舞美ちゃんが、いた。
夢かと思って思い切り目をこすって、ぱちぱちと瞬きをしてみる。
だけど舞美ちゃんは確かにそこに存在していた。
思わず名前を呼びそうになって、寸前で止めた。
寝ていた舞美ちゃんをあんな電話で起こしてしまった事を思い出したからだ。

ゆっくりとベッドから抜け出して、そっと隣にしゃがみ込んだ。
呼吸のたびに背中が上下に揺れている。
自然に頬が緩んで、さっきまであった気持ちが少しずつ消えていくのを感じていた。
暗闇を中を抜けて光に出会った時、舞美ちゃんがいてくれた。ホントに救い出してくれた。

正義の味方のヒーローみたいだなって思ったらおかしくて、そっと髪を撫でた。
すると、舞美ちゃんの体が少しもぞもぞと動いて、慌てて手を引っ込めてみたけれどもう遅くて。
ゆっくりと体を起して私がいるのを確認すると、舞美ちゃんが目を細めてふんわりと微笑んだ。

「愛理。ごめんね・・・勝手に部屋に入っちゃって。電話出ないから心配になって、そしたらお母さんが入っていいって言ってくれたから・・・ごめん。」

あんな風に電話を切って、謝るのは私の方なのに申し訳なさそうに言われると辛くて。
包み込むようにぎゅっと抱きしめた。触れたくて仕方なかったぬくもりが伝わってくる。
舞美ちゃんの腕が私の背中に伸びてきて、お互いに力を込めて引き寄せた。
そうすることで想いの深さが伝わる気がした。

「すぐ来てあげられなくてごめん。」

謝ってばかりの舞美ちゃんの背中を軽く叩く。耳元に唇を寄せた。

「謝らないで・・・。」

今はそれだけ言うのが精一杯だった。
私の腕の中でわかったって言うように何度か頷いて、舞美ちゃんの右手が私の髪を撫でる。

「愛理に会いたかった。」

その言葉に少しだけ体を離すと、照れて顔が赤くなっている舞美ちゃんと目が合った。
自然に引き寄せられるようにお互いに唇を寄せると、切なげに声とも言えない息を吐き出す。
舞美ちゃんの背中に回していた私の手が下に降りていき、Tシャツの裾から少しだけ手を入れると汗ばんだ肌に触れた。
そのまま肌の感触を確かめるようにゆっくりと手を上に移動させると、舞美ちゃんのカラダが揺れるのがわかった。
唇を離して舞美ちゃんの表情を見る。困っているような戸惑っているようなそんな表情で、私は舞美ちゃんの目をしっかり見ながら背中を撫でた。

「愛、理っ。」

顔を隠すように私の肩に顔を乗せた。それはひどく熱い。
耳に唇を当ててもっとしっかりと抱き寄せると、長く息を吐く。その息が私の首筋に当たった。
その熱いくらいの息がそのまま突っ走りそうになった意識を醒ました。

Tシャツから手を出すと、舞美ちゃんがそれに気づいて顔を上げた。
きょとんとした表情に思わず笑ってしまう。と同時にこの先をもしかしたら期待してくれていたのかもしれないと思った。
そうだとしたら、それはすごく、嬉しい。

「舞美ちゃん、かわいい。」

そう言うと当たり前のように首をぶんぶん横に振って一生懸命否定してる。ホントにかわいい。
きっとまたかわいいって言っても全力で否定するんだろうなと思ったから、かすめるように頬に唇を当てた。
恥ずかしそうに嬉しそうに目を細めて笑ってくれるその笑顔が眩しくて、私も目を細めた。



飲み物でも・・・と思って立ち上がった瞬間、自分がまだパジャマ姿だった事に気がついた。
舞美ちゃんは何も気にしていないというかむしろ嬉しそうにしていたけれど、そう思ったら一気に恥ずかしくなった。
「着替えさせてあげようか?」ってにやにやして言われたから否定したけれど、私よりも舞美ちゃんの方が恥ずかしそうにしていておかしかった。

飲み物を持ってきて、肩をくっつけてテーブルの前に座った。
そこでやっと私は朝の出来事を舞美ちゃんに話す事が出来た。
舞美ちゃんは私の言葉ひとつひとつを逃さないように大事に聞いてくれた。
肩に回された手が、とんとんとゆっくりとしたリズムでまるで私をあやしてくれてみたいだった。
一通り聞き終えた舞美ちゃんは、うんうんって優しく頷いてその後に髪を撫でてくれた。

「桃にはね、ずっと言ってなかったの。好きな人がいる事も。愛理の事は誰にも言ってなかったんだ。」

舞美ちゃんが静かに話し始めた。

「なんだろう・・・もし、もしもだけど・・・愛理が思ってた人じゃなかったらって思うと怖くて。」

『人間不信』・・・さっき言った桃の言葉が頭の中でリピートされる。
そしてあの屋上で告白された日の事も思い出した。あの時確かに舞美ちゃんは「やっぱり思ってた通りの人だった。」と私に言った。

「みんなが私を好きだと思ってくれてるのはホントに嬉しくてありがたいって思う反面、ちょっと怖かったんだ。」

舞美ちゃんが辛そうに唇を噛む。だから手を伸ばして舞美ちゃんのカラダを包み込んだ。
少し震えていたから、「もう無理して話さなくてもいいよ」って言ったけれど、舞美ちゃんは静かに首を横に振った。

「愛理をどんどん知っていって、愛理が私の内面をちゃんと見てくれてるのがわかった。情けない姿見せても幻滅されなかった。」

ぎゅうっと抱きつかれた。細いのに力強くて包み込まれるこの腕が私はどうしようもなく、好きだ。
かっこよくてかわいい舞美ちゃんも情けない舞美ちゃんも、愛おしい。

「ホントに嬉しかった。思い切って告白してよかった。愛理を好きになってよかった。」

私も舞美ちゃんに出会えてよかった。あの時あの場所であのカタチで出会えてよかった。
好きとか愛おしいとかそんな言葉しか出てこないのがもどかしい。だから触れている事で伝わればいいと思った。

「私も、舞美ちゃんに出会えてよかった。舞美ちゃんを好きになってよかった。」

そう言うと、すごく優しく微笑むから。
もっと触れたくてわからせてあげたくて・・・伝えたくて。

「舞美ちゃん、しようか?」

その言葉に舞美ちゃんは一瞬驚いた顔をしていたけれど、すぐに笑顔に変わって。
恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに。ゆっくりと笑顔で頷いた。



END