Fallin’ 「つまんないの。」
「なんで?」 私はベッドに腰掛けていた状態からぽすんと倒れ込んで寝転んだ。 たんの顔が見えなくなって、その代わりにいかにも外国っぽい壁紙が視界いっぱいに広がった。 「亜弥ちゃんは?」 「何にもないよ。」 「・・・亜弥ちゃんだってつまんないのー。」 ふふふ、と笑う声が全然変わってないから気を緩めたら一気に意識を巻き戻してしまいそうになる。 ぐっと堪えて体を起こすと、たんが目を細めて微笑んでいた。 そんな優しい顔しないで欲しい。狂犬とか言われてたアンタはどこ行ったのさ。 いや、どこにも行ってない。 でも心から幸せが滲み出るような表情が出来るようになったのは、ここ最近だ。 「亜弥ちゃんモテるのにねー。」 「まぁね。」 適当に答えたのは、たんの顔を見るのに必死だったから。 でもそれにたんは気づかない。 気づいてなんて欲しくない。なのに欲しい。なんて矛盾。 久しぶりにたんと旅行してる。正確には仕事だけど。 こんな風に泊まる事がホントに久しぶりだった。前は当たり前のようにあったのに。 だから意識が飛ぶ。完全に飛ばない程度に。 そんな自分を自虐的に楽しんでいるようにも思えて、笑えてくる。 少し前までは、あーだこーだと近状を知らされて、それで頭の中でそれを自分にすり替えてみたりして。 自分だったらどんなにいいだろう・・・なんて考えて。 くだらない、と思って考えを止めようとしても止まらない日もあった。 友達以上恋人未満は今でも変わってなくて、当時はそれで満足で。 だけど今は・・・。 「あああああ!もう!」 「あ、亜弥ちゃん?」 勢いに任せて吐き出してしまいたい。 でも、やっぱり出来ないというか、しない。 その代わり、この仕事が終わるまではすり替えてしまいたい。 「久しぶりに一緒に寝ようか?お風呂入るべー。」 「入るぅ!」 嬉しそうに笑うたんの顔がうまく見れない。 たんはやっぱり気づかない。 だから私が得してる事はきっとたくさんあるんだろう。 やっぱり友達以上恋人未満なんだなぁって思い知らされる。でも今はそれを考えない。 お風呂に入って久しぶりにたんの体温と匂いを感じながら眠る。 寝がえりをしたフリをしてたんの首筋に近づいた。 ふっと息で笑ったのがわかってくすぐったくて、なんて刹那。 3回だけ背中を優しくとんとんと叩かれた。まるで寝かしつけてられているかのように。 そしてしばらくしてからたんの寝息がすぐそばで聞こえてきた。 その音が私の眠気を急速に誘う。 ホントはもっと起きていたい。もったいなくて寝たくなんかないのに、すごく眠たくて意識が遠ざかる。 その奥にあるのは、当たり前のように一緒に寝てた頃の事。 恋に落ちたのはいつだっただろうか。 そのくらい遠い過去までさかのぼって、そのまま眠りについた。 END |
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