ふたりで歩いて行けたら



ぽつり、ぽつり。

灰色の空から落ちてきた滴が頬に当たって、それで雨が降ってきたんだと気がついた。
雨粒の量が増えてザーッという音に変わって、アスファルトと雨が混ざり合った独特の匂いがした。
あっという間に濡れていく景色。
隣の舞美ちゃんもまた、雨に濡れていた。

「あーぁ・・・やっぱり降ってきちゃったよぉ・・・。」

空を見上げるその横顔が綺麗だ。
いつも一緒にいるのに見慣れる事のない舞美ちゃんの横顔に鼓動がちょっとだけ早くなる。

「愛理、傘持ってる?」
「ううん・・・。」

今日は晴れのち曇り。雨の予報などなかった。
舞美ちゃんはその事を知ってか苦笑いをして私を見る。
ごめんね。
目でそう言っているのがわかって責める気持ちなどこれっぽっちもないのに何故か伏し目がちになってしまう。

一旦雨宿りの為にビルの軒下に身を寄せた。
しかし降りだした雨は一向に止む気配はなくさらに勢いを増す。
急に降りだした雨に足早になる人々を眺めながらどうしようかとぼんやりと考えていた。

すると舞美ちゃんががさごそとカバンから折り畳み傘を取り出した。

「なんとなく、今日降る気がして。」

雨の音でかき消されそうな細い声でそう言って私に微笑む。
周りはほとんどの人が傘を持っていない。そんな中私と舞美ちゃんは傘を差して歩いた。

肩が濡れるから、そう言われてぴったりとくっついて歩く。
でも舞美ちゃんは優しくて、私よりずっと舞美ちゃんの肩が濡れていた。
それなのに「傘があったから濡れなくてよかったね。」って。
そんな事言うから、私は甘えたまま傘の中にいた。

こうして一緒に歩く事なんて今までたくさんあったのに、傘を差して歩いているだけで自分たちがふたりきりの空間にいるような気持ちになる。
それが嬉しくて決して雨が降る事は嫌な事ばかりじゃないんだよって教えたくなる。
でもそれをうまく教える方法を私は知らなかった。
ただ、舞美ちゃんの優しさに触れる事しか出来なかった。

気がつけば雨はゆっくりと小降りになり、そして止んだ。
舞美ちゃんが傘をゆっくりと下ろして空を見上げる。

「すぐ止んでよかったね。」

やっぱり自分のせいで雨が降ってしまったと思っているんだろう。
安堵の表情で傘を丁寧にしまってカバンに入れた。
ちょっとだけ、寂しいと思った。傘がないだけでふたりきりの空間がなくなってしまった気がしたから。

空はどんどん明るくなって灰色の空はいつの間にか澄み切った青空に変わっていた。
やんわりと日差しが当たって濡れた景色がきらきらと光る。
舞美ちゃんはふんふん、と気持ちよさそうに鼻歌歌いながら一歩先を歩く。

私の心の中が、どんより。

心の距離までも離れちゃいそうな気がして。

「舞美ちゃん。」

考えるとかそういうのより先に口から出た。
ああ、どうしよう。そう思ってたのに。

振り返った舞美ちゃんは笑顔で私に手を差し伸べるから。
その手を握ったら、さらに嬉しそうに微笑むからから。

雨の日も晴れの日も。どっちも好きだと思えた。



いつだってこんな風にふたりで歩いて行けたら。



END