幻想

綺麗で脆くて危うくて、だけど輝いて。
そんな想いを胸の内に留めて。

愛理が笑う度に、泣く度に。愛理が何をしててもしていなくても。
私の心は簡単に揺さぶられてゆらゆら揺れた。

愛理が求めているのはただの幻想だと。

言い聞かせてだけど足りなくて。
私は溺れていく。止められないんじゃなくて、止まらない。

愛理が私を好きなのはわかっていた。
天然で鈍くてすぐに騙されちゃう私だけど、いつからか疑いが自惚れにそして確信に変わった。
私は愛理が好きだった。

だけど私には幸せにする術を何も持ち合わせていなかった。
それはとても悲しい事で、いくら気持ちを寄せても共鳴させても重ねても、そこには何もないんだろう。
愛理の気持ちを知っていて、私は近寄ったり離れたり曖昧で危ない距離を保っていた。
それは私の弱さで、愛理から完全に離れる事が出来なかったからだ。
それが余計に愛理に辛い想いをさせている自覚があった。
抜け殻のままでいる方がどんなに楽だろう。

だけど愛理を想う気持ちはなくならない。きっと、たぶん、ずっと・・・。

◇◇◇

「舞美ちゃん、写真撮ろう?」

嬉しそうに笑うから、私も笑ってその願いを叶える。
こんな風に全てが簡単に叶えてあげられるものだったら、きっと私は愛理を幸せにしてあげられるんだと思う。
肩を抱いて顔を寄せると、目を細めて嬉しそうに笑った。
それだけで簡単に揺れる自分の気持ちが憎い。

「待ち受けにしちゃおうかな。」

撮った写真をチェックしながら、愛理がぼそりと呟いた。
私は聞こえないフリをして愛理の側から立ち去ろうとした。
だけどそれは出来なくて、何故なら愛理が私の服を掴んで離さなかったからだ。

「愛理?」
「逃げないでよ。」

手は私の服に伸びているけど、顔は携帯に向いたままだから表情は見えない。

「逃げてなんかないよ。」
「嘘だぁ。」

そこでやっと愛理が顔を上げた。予想外に愛理はにこにこ笑っていたから、私は一瞬驚いた顔をしてしまった。
その隙をついて愛理が服をぐっと引っ張った。反動ですぐに愛理の近くまで体が動いた。
愛理はまだ笑っていた。

「舞美ちゃん。私の事好きでしょ?」

また愛理もわかってしまったみたいで、それはいつからなのかわからない。
気づかれないようにと思っていたような、思っていなかったような。
そんな私の行動は全てが曖昧だったんだろう。余計にわかりやすかったのかもしれない。

ぐいっと胸倉を掴まれた。すぐ目の前に愛理の顔がある。
さっきまで笑っていたのに今は怒っているみたいで、だけど泣き出しそうな顔をしていた。
そんな顔されると、私は簡単に気持ちが揺れてしまう。

愛理が力ずくで私をそのまま引き寄せて乱暴に重なった唇は決して甘くも柔らかくもなく、刹那と痛みしかなかった。
愛理だってそれに気がついているはずなのに、それでも真っ直ぐに私の事を求めている。
離れた唇は、すぐに私の名前を呼んだ。

「舞美ちゃん。」

いつもより湿ったその声は、耳からすぐに体全体に広がって痛み出した。追い詰められていくようにじわじわと。
純粋で真っ直ぐであればある程強かった。私のように簡単に揺れたりなんかしない。
それが怖かった。泣き出したかった。

◇◇◇

本当は私も愛理が好きだと伝えたい。
抱きしめて安心させてあげたい。同じ気持ちだよって穏やかに笑い合いたい。
幸せにしてあげたい。この先もずっと。

だけど出来ない。

私には出来ない。どうしても出来ない。
だったらどうしてこんな想いを抱いてしまったんだろう。
無駄に苦しむだけのこんな想い・・・だけど私にはこんな想いだなんて思えなくて。
だから余計に愛理を苦しめて、ごめんなさい。
そんな顔させたいわけじゃない、そんな気持ちにさせたいわけじゃない、のに。

ごめんね、愛理。



END