午前0時を過ぎたら 一番に届けよう



明日は朝から移動しなければいけない事もあって、私以外のメンバーは取材と打ち合わせをして夕方には解散だった。
事務所に着いて支度をしていると次々とみんながやって来た。
だけどもう少しで打ち合わせが始まるというのにちぃだけがまだ来ない。
心配になって携帯に連絡すると『もうすぐ着く!』って簡潔なメールが届いてとりあえず安心する。

「ちぃ、遅くない?」
「今、メールしたらもうすぐ着くって。」
「へぇ。」

何か言いたげににやにや笑うみやの肩を軽く叩くと、ドアの向こうからどたばたと騒がしい音が聞こえてきた。
無意識にみんなが視線をドアに向けると、ガチャリとドアが開かれていつもの笑顔でちぃが現れた。

「おぱょお!」

ああなんだちぃか。
みんなそう理解した次の瞬間、右手に持っている大きなキャリーバックに目が行く。

「は?何その荷物?移動は明日だよ?」
「わかってるってー。」

みやの言葉を流すように、ちぃはよいしょって言いながらキャリーバックを部屋の隅に置く。

「何入ってるの?」
「何も入ってないって!」
「じゃあ何で持って来たの!?」
「いいのー!もうキャリーの話はいいから!」

他のメンバーももうキャリーには興味がなく、みやもそれは同じだったらしくそれ以上ちぃに突っ込む事はなかった。
でも、何入ってるんだろう?昨日電話した時も何も言ってなかったのに。



打ち合わせも取材も終わり、みんなは帰る支度を始めていた。
私はこの場にそのまま残る事になっていたから支度をするメンバーと雑談しながら次の仕事の準備をしていた。
明日はキャプテンの誕生日だねーなんてみんなが話してくれて、歳をとるのは嫌だけどでも嬉しくて心が温かくなった。
でもその話題にちぃだけが入ってこなくて、ちぃは椅子に座ってずっと携帯を眺めていた。
キャリーといい、どうしちゃったのかな。そういえば今日ちぃと話してないなって思うと心の奥がきゅっと音を立てた。

「寂しいの?」

その問いかけにハッとして顔を上げると困ったように笑って私を見るみやがいた。

「何か今日のちぃ変だもんね。何かあったの?」
「ううん、昨日も普通に電話したりしたし・・・。」
「ふぅん。」

いつもみたいに普通に話しかけたらいいのに、意識しすると話しかけられなくて。

「じゃあ私、そろそろ準備するね。また明日ね。」
「ちぃと話した方がいいんじゃ・・・。」
「ううん、いいの。」

こういう自分は嫌いなのに素直になれない。
もしかしたら追いかけてきてくれるんじゃないかとさえ思っちゃう自分も・・・本当にかわいくない。
明日ひとつ歳を重ねるというのに。大人になれない心の余裕もないんだと思い知らされて、体の奥から込み上げたもので目が熱くなる。
まだ帰ってないみやとちぃには見られたくなくて足早にドアに向かって歩き出した。
そして勢いよくドアノブを掴んだ途端、反対側の左腕をぐいっと掴まれた。

「きゃ、キャプテン。」

掴まれたところが痛くて熱い。反射的にちぃの顔を見ようと上を向いたら涙が流れた。
それを見てちぃが目を丸くして驚いている。慌てて俯いて目を逸らすと掴んでいた手は離された。

「キャプテン。あの、あのね・・・。」
「ちぃ!キャプテン泣かすとか許さないからね!」
「えっ、いや・・・ってかみやには関係ないし。」
「関係あるとかないとか関係ないから!」
「何言ってるのかわかんないし!」

ふたりに挟まれた頭の上で火花が散る。降り注いだ火花は私に火を着けた。

「ちぃ・・・何で?今日全然話してくれないし・・・キャリーは何?隠し事も嫌だし・・・嫌われるのも、嫌だよ・・・。」

溢れた感情で繋いだ言葉はとんでもなくみっともなかった。
止まらない涙も構わなくなってちぃの顔を見る。ちぃは固まってしまったかのように動かない。

「ちぃ、嫌だよぉ・・・。」

抱きつくといつも感じてる匂いがする。ずっと触れたかった少し高めの体温。
もっと感じたくて背中に腕を回すと、ちぃの腕が私の背中に回った。

「違うよ、キャプテン。あの、ね。今日、泊まりに・・・行ってもいい?」
「・・・えっ?」
「みんなの前で言ったら冷やかされると思って・・・何かうまく言えなくてずっと緊張してて・・・ごめん。」

大きいキャリー。私の家に泊まってそのまま移動するつもりだったから、で。
今日全然話してくれなかったのは、いつそれを言おうか考えてたから、で。

「た、誕生日一緒に迎えたくて・・・・。」

ちぃの顔が真っ赤になる。それを見て移ったかのように私の顔もみるみる真っ赤になる。

「なーんだ。結局ノロけかよ!」

みやが呆れたように言って、その後によかったねと言う代わりに私の肩を優しく叩いた。

「ってか!今日みやがずっとキャプテンと一緒にいたから!言うタイミングなかったし!」
「みやがいたって言えばいいじゃーん。」
「冷やかすだろ・・・。」
「当たり前でしょ!」

いつものようにふたりでわいわいぎゃーぎゃー慣れ合いのケンカが始まる。
微笑ましくそれを見守りながら幸せを噛み締める。

「とりあえず明日遅刻しないでね。熱い夜を楽しんでね。」

意味深にニヤリとみやが笑ってちぃを見る。ちぃは目をまんまるくして怒っている。

「おまえなぁ!」
「あーぁ。明日どんな顔して会えばいいのかなー。熱い熱い。」

そう言い残して逃げるようにみやは帰って行った。
騒がしかった部屋にふたりがぽつり。

「キャプテン・・・ごめんね。」
「ううん、私も勝手に誤解して・・・ごめん。」

やっとお互いに本当に笑い合えた。嬉しくてちぃの体の中に入り込む。

「仕事終わるの待ってるから。」

目を細めてちぃが笑う。くすぐったくなるような幸せな気持ちが体中に広がっていく。
ちぃも同じだったらいいと、思いを込めて強く抱きしめたら同じくらいの強さの想いが返ってきた。



END