走り出すなら土砂降りの雨

カーテンを閉め忘れた窓から微かに漏れる光。明るくも暗くもない空。
暑くもない、だからと言って寒くもない気温。だけど纏わりつくような息苦しい湿気を含んだ空気。
完全に寝静まった世界に、ざあざあと降り続ける雨の音は、カーテン1枚ないだけでこんなにも耳につく。

---雨の音、舞美ちゃんの呼吸、私の呼吸。
時々シーツが擦れる音と、ベッドが軋む音。

静寂だからこそ余計に響くそれらの音がはっきりと耳から頭の奥、そして体全体に響いた。



くせ毛になるから雨は嫌だ、と言った私に、愛理のくせ毛かわいいのに、って。
愛おしそうに髪を撫でられたあの日から。
単純だと思われても仕方ないくらい、雨が嫌いじゃなくなった。くせ毛も嫌いじゃなくなった。
雨が降るたびに思い出す。熱を含み愛おしさを含んだ、あの手をのぬくもりを。

あの時に私の髪を撫でたその手をそっと掴んで、私の頬につけた。
舞美ちゃんが不思議そうな顔をして、それでも黙って私にされるがままでいる。
そのまま頬から唇に移動させて、手のひらに口づけた。
それから手の甲、指先に唇を当てていたら、舞美ちゃんの顔が恥ずかしそうに赤く染まった。
薄暗くてもわかる舞美ちゃんの目が、私の唇を見ている。
その艶めいた目に射とめられて、吸い込まれるように唇に口づけた。
カラダを抑えつけるように閉じ込めるように。抱きしめる腕の力を増すと、行為自体も強くなった。
息が上がって、我慢できなくなったのか色づいた声が漏れ出す。
たまらなく愛おしい。
漏れる声も、震える体も、滑らかな肌も、数え上げたらキリがない程に。
全てが愛おしいなんて。こんな気持ちを持つだなんて思いもしなかった。
舞美ちゃんに、会うまでは。

強くなり熱くなった行為で、顔だけじゃなく体中汗ばんでいた。
合わせている肌がべとつくのに気持ちがいい。
舞美ちゃんの額から汗が重力に従って流れ落ちていく。
私の汗も髪から顔へ流れてきているのがわかる。
舞美ちゃんの髪の毛は私のようにくせ毛じゃないけれど、乱れ動く度に髪の毛が汗で額や首筋に張り付いていた。

私の髪はどうだろう。くねくねしてるんだろうか。

思考に気をとられて手が止まってしまった、その事に気がついた舞美ちゃんがふわりと笑って。
わかってるやってるのかわからないけれど、ゆっくりと手を伸ばし私の髪を愛おしそうに撫でた。
途端、あの日にフラッシュバックして、体の奥から熱い塊が溢れてきて体温が上がるのがわかった。

---熱が上がる。汗が噴き出る。心が熱くなる。

その熱を含んだ私の汗が、舞美ちゃんの頬にゆっくりと、落ちた。

窓の向こう側も私のカラダも舞美ちゃんのカラダも、濡れていた。
太陽の光を浴びカラカラに乾いていたシーツも、熱と湿気を含み始めていた。
私は舞美ちゃんが望むままに濡れたそこに手を当てた。



やけに耳に付く雨の音を聴きながら。
私たちが雨に打たれているようなそんな気持ちになりながら。
どんどん濡れて溺れてしまえばいい。

そうしたらもっときっと、雨が好きになる。



END