秘密 「やじの秘密知ってるよ」
そう言うとやじは眉間にしわを寄せて首をかしげた。 「ねぇ、何知ってるの?」 早貴はやじの耳に唇を寄せた。 このまま耳に口づけたい気持ちをぐっと堪えてごにょごにょと伝えると案の定、やじはびっくりして目を見開いた。あまりにも綺麗でだけどおもしろい顔。 ふふふ。これでやじは早貴の思うがまま。私のみぃたん。 「あの秘密ばらしちゃうよ〜」 そう言うとやじはすぐに言う事を聞くようになった。 「おそろいのアクセサリー欲しいな」 「そ、それは・・・」 きっと愛理の事を気にしてるんだろう。 でもそれも最初のうちだけだろう。この秘密さえ知っていればやじは早貴のものだ。そしていつかああなってこうなって・・・キュフフ。 「ねぇ、今日家に来ない?」 めずらしくやじの方から誘いが来た。 ついに来た、ついにこの時が。しかし浮かれてはならない。 そんな気持ちを隠して「いいよ」と答えると心底嬉しそうに笑った。 そう言えばこんな笑顔を見るのはあれから初めてだったのかもしれない。 それにこの時気づけなかったのはきっと浮かれていたからだ。 やじの部屋に入るとすぐベッドに目が行った。 ここでこれから。ごくりと喉が鳴った。下着も新調したし肌の調子も今日は格段にいい。ベストコンディション。 テーブルの上にはお菓子とか乗っていたけどそんなの目に入らなかった。 「なっきぃ、ここに座ってよ」 ソファーを指差されてそこに座る。遅れてやじが隣に座った。肌が少しだけ触れる。 でもこれからもっと。緊張が高まってくる。やばい。 もうすでに冷静では入られてなくなっていた。それが油断だとは気づかずに。 やじがお菓子の袋を開けた。がさがさという音が響く。私は喉を潤すためお茶に手を伸ばした。その時だった。 「なっきぃ、こっち見て。」 隣を見た時に見た最後のやじの笑顔は満開の笑顔だった。 突然口の中に流し込まれる柿ピー。かじる間もなく入ってくる柿ピー。口の中で溜まっていく柿ピー。勢い余って口からこぼれ落ちる柿ピー。 やじの汗だくの手に掴まれた柿ピー。口の中に次々と入ってくる。苦しい、苦しい。 でも心の奥でそれに喜びを感じている自分がいた。 「あははははは!」 やじが高笑う。 ソファーに押し倒されてもなお、柿ピーは口の中に入ってくる。もう限界だった。やじを突き飛ばすとやっとやじは動きを止めた。 助かった。しかし、こんな事されるとは全然違う。押し倒されたけど全然違う。もどかしさの中に生まれた怒りをやじにぶつけた。 「こんな事したら秘密ばらしちゃうからね!」 そう、これさえあればやじは早貴の思うまま。 しかし舞美はニヤリと笑うと穏やかな優しい口調で言った。 「そしたら今度はとんでもないもの口に流し込むから。」 にっこり。 ああこれは罰だ。強請るとこうなる、よく2時間ドラマで強請って殺されるあれ。私は結局強みさえも弱みに変えられてしまったのだ。なんてヘタレ。 悔しいけれど逆らう事など出来ないのだ。こんな思いはもうこりごりだ。 「じゃあ、お菓子でも食べよ?」 やじがまた何かの袋を開けた。ビクッと身がまえたが何事もなく普通に食べ始めてほっとする。 それでやっと周りが見えてテーブルの上に散乱してる柿ピーと柿ピーの袋を見ると袋の数は数え切れないほどたくさんあった。 このやじの秘密は墓場まで持って行こうと心に決めた。 END |
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