星のスクリーン



すぐそばにいるはずのカラダに手を伸ばしたら、ひんやりとした布団の感触しかなかった。
柔らかくて温かい、知っているはずのぬくもりがない事に気がついて、すぐに目が覚めた。
暗闇に慣れない目を一生懸命凝らして、そこにいるはずの舞美ちゃんの姿を探したけれど、いなかった。

携帯に手を伸ばして時間を見たら、もう午前2時を過ぎたところだった。

トイレに行っているか、喉が渇いて飲み物を取りに行っているのかと思った。
寂しく思いながら、携帯の時計を見つめてじっと待った。遅くても10分後には戻ってくると思った。
ふたりでいる時間はいつもあっという間に過ぎてしまうというのに、時計だけをじっと見ているとどうしてこんなに時の流れが遅いんだろう。
だけど、辛抱強く待った。
戻ってきたら思いっきり抱きしめて欲しかった。
細いけれどしっかりとカラダを包み込んでくれる腕と、熱いくらいの体温が恋しい。

やっと、暗闇に慣れたと同時に10分経った。
舞美ちゃんが戻ってくる気配がしなかった。
すると胸騒ぎに似た動悸が襲ってきて、恐ろしく不安になった。
胸の前に手を置いて、深呼吸をしてもそれは収まらない。
舞美ちゃんの携帯に電話をしようかと思ったけれど、携帯は私の目の前に置かれたままだった。

「舞美ちゃん・・・」

愛しい人の名前を呼ぶ声が自分が思ったよりも掠れていたのが何よりも心の動揺を表している。
思考があやふやなのに揺れるから、余計にわけがわからなくなって、立ち上がったらふらふらした。
ぎゅっと握りしめた携帯は無意味だから、元の場所に戻した。

その時、カーテンが揺れた気がして窓を閉め忘れていたのかと近づいて。
カーテンの隙間と窓の向こう側によく知ってる姿が、見えた。



いつだったか、一緒にベランダから空を見た。
私がここから見る空と星が好きだって言ったら、舞美ちゃんは目を細めて頷いて、私の頭を撫でてくれた。
それからお泊りする時は、空を見る事が多くなった。
だからお母さんに椅子を2個買ってもらって、天気がいい時はその椅子に座って空を眺めていた。
「私もここから見る空が好きになった」って言ってくれた時はすごく嬉しかった。



思えば今日はそんな余裕がなくて、触れ合ってそのまま眠ってしまった。
いつも舞美ちゃんが座る右側の椅子越しに背中と頭が見える。
そっと窓に手をかけて開けてみたら、いつもは大きい音だとは思わないのに夜の静けさにやけにカラカラと響いたその音は、舞美ちゃんには届かなかったらしい。
もしかして・・・と思って顔を覗き込んだら案の定、眠っていた。
どのくらいの時間、ここで寝ていたんだろう。
起こさないように触れた手は、思ったよりも冷えていた。

「舞美、ちゃん。」

びっくりさせてしまわないように、丁寧に名前を呼んで肩をゆっくりと揺らした。
すると、舞美ちゃんの目がゆっくりと開いてよくわかってないのか何度かぱちぱちと瞬きをする。
そしてその目が私を捕えて、瞬間驚いたように目を開いた。その大きな目が綺麗で思わず見惚れた。

「あ、愛理・・・。あれ?私・・・。」

何もわかってないような表情で私を見る舞美ちゃんが綺麗でそれでいてどうしようもなくかわいくて。
座ったままの舞美ちゃんのカラダを包み込むように抱きしめた。
ひんやりとした感触が自分に伝わって、とても愛おしい。

「いなかったから、心配した。」

耳元で囁いたら、やっと状況を理解したのか、舞美ちゃんの腕が私の背中に回されて力強く抱きしめられた。

「愛理、ごめん。」
「どこかに、行っちゃったかと思った・・・。」

さっきの不安な気持ちがフラッシュバックして鼓動が速くなる。
それを沈めるように舞美ちゃんの手が、私の背中をゆっくりと撫でる。

「ごめんね・・・。今日の星は綺麗かなって思って。綺麗で見惚れてて・・・そしたら寝ちゃってて・・・ごめんね?」

時々こんな風に、舞美ちゃんはとても危うくて。
それがいつも無意識なのがずるい。

「愛理、ごめん。」

そしてすごく申し訳なさそうに素直に真っ直ぐにそう言ってくるのも、ずるい。
だから私はいつも許してしまうの。
さっきまでも寂しさも不安も全て取っ払われて、抱きしめてしまうの。

「どこにも、行かないで。」
「行かないよ。」

私の言葉に嘘偽りない言葉で即答して、立ち上がる舞美ちゃんは嬉しそうに微笑んで私の手を握った。
そのまま部屋に入ろうとして、ふと舞美ちゃんが空を見上げる。
それに釣られて見上げた空の、凛とした輝きに目を奪われた。
舞美ちゃんのようだと思った。

いつまでもこうして一緒に見ていたいと思う。
舞美ちゃんが空を見上げるように、日々に流されて忘れちゃいけないんだと思った。

思わず力が入って強く手を握りしめたら、同じ力が返ってきて。それがとても幸せで胸の奥が熱くなった。



END