星空メロディー



「キャプテン!今からドライブしよう!」

ホントに今急に思い立って電話してきたんだろうちぃの声は子供のように楽しそうだった。
私はもうベッドの中で半分夢の中で何かふわふわしてて心地良かったのに。
でもちぃの声を聞いてたらそわそわしてきて私は素直にベッドから出て服を着替えていた。

「着いたよー!」

さっきと同様にテンションの高い声。これはかなりご機嫌っぽい。
助手席に座ると満足げにちぃが笑う。

「しゅっぱーつ!」

ちぃが右手を上にかかげて、私もそれに乗っかる。
夜の街を流れるように走る私達。星は見えなかったけど流れる光に吸い込まれるように見惚れる。
会話はほとんどなかったけど運転している横顔はやっぱりご機嫌で、そんな表情を見てるとこっちまでご機嫌になる。
夜の高速道路の光の列に導かれるように車は走り続ける。

ちょっとだけ静まりかえった夜の街はそれでも賑やかに光り続けて、心の奥を照らすから。
ちぃの顔を見る。相変わらずにこにこ。心が乱れる。ざわざわと。

いつからだろう、もしかしたらって思ってでもそう思った時にはもう好きだったんだと思う。
好きになった瞬間に失恋したようなものだった。だってこんな無邪気で自由な人をたったひとりのものには出来ない。
束縛したくなくて自由でいて欲しくて重荷になりたくなくて。
そう思ってずっと接してきたのに。ざわざわ乱れる心が光に照らされて気持ちが出ちゃいそうになる。
ちぃがどうしようもなく、好き。

「キャプテン。」
「ん?」
「楽しい?」
「楽しいよ?」

車はPAに止まった。車から降りようとドアに手をかけるとその手が強い力で掴まれた。
振り向くと思ったよりも近くにあるちぃの顔。さっきまであんなににこにこしてたのにどうしてこんな表情してるんだろう。
いや、させてしまったんだろう。

「キャプテン、ずっと泣きそうな顔してる。」

見透かされた心に触れられそうになって慌てて光を閉ざす。

「そんな事ないよ。」

笑ってそう言ったのにその言葉なんてきっと聞いていなくて、ちぃの力は徐々に強くなる。
私を見つめる目の純粋さに吸い込まれて喉まで出かかってる気持ちを息と一緒に飲み込んだ。
これ以上触れないで欲しい。すぐにでも気持ちが出てしまうから。
泣きたくなって俯いたらちぃの手が離れた。

「元気、あげるよ!」

顔を上げるとちぃはさっきのようににこにこ笑って車から飛び出した。
私も車から出ると、ちぃが子供みたいにうわーって走り出す。反射的に追いかけると走りながら振り返ったちぃは更に速度を速める。

「ちぃ、待って!」

その言葉にちぃは立ち止まって、追いつくと手を握られた。またちぃが走り出すから息が整わないままに引っ張られるように私も走る。
そしてPAの端のまで来るとぴたっと急に立ち止まった。

「はぁ!疲れたぁ!」

気がつけばまわりに人がいなくて街灯も減って、お互い息を整える音しかしなくて。ふたりだけの世界みたいだなんて思っちゃったりして。
心の奥からまたさっきみたいに込み上げてくる感情できりきり痛い。
そんな気持ちに気がついてないちぃは私の手を離して、私の目の前に立つ。

「キャプテン、きっと元気出るよ。」

ちぃが両手を広げて空を仰ぐ。導かれるように見上げた空には、満開の星の光が。
凛とした空気のせいでより一層誇りのように輝く星達とちぃの純粋さは似ている、ふとそう思ったら綺麗な程切なくて泣きたくなった。

「綺麗でしょ!ね!元気出た?」

涙が流れて私は頷く事しか出来なくて、泣いた事心配されるかなと思ったけどきっとちぃは何かを感じていて嬉しそうに微笑んだ後、ちぃもまた空を見上げた。
今度は私から手をつなぐと「キャプテン甘えん坊」って笑って言われたけど手を離される事はなかった。

こういうちぃが本当に好きでこんな事されたらもっと好きになっちゃうんだよ。
こんなに誰かを好きになりたくないって思ったの初めてなのに。こんなに好きになっちゃってどうしたらいいの?



ちぃの体に寄りかかるように体を寄せるとちぃはされるがままで。黙って嬉しそうに満開の星空を眺めていた。



END