I Love You More

付き合うようになっても、舞美ちゃんの態度は何一つ変わらない。
ほら、今もなっきぃと楽しそうに話してる。
私が今、ひとりでいる事なんて気にもしてないんじゃないかと思うと、ひどく寂しかった。

付き合おう、と言われた日に、一瞬だけ交わしたキスと、抱きしめられた熱。

それ以来そんな事もなく、私に対する態度だって今までと変わらない。
いつも通り、優しく笑ってくれるけど、トクベツな関係になった、という実感はなかった。
あの日のキスも、熱も。全部私の妄想だったんじゃないかって。
そしたら全部辻褄が合うんじゃないかって思ったら、悲しくて笑えた。

誰にも何も言わず、楽屋を飛び出した。
ひとりで廊下を歩いてたら、やけに自分の足音が響く気がした。
その足音は、何処へ向かうか方向を見失っている。
ただただ、真っ直ぐ歩く事しか出来なかった。
そのまま歩いていたら、そこは行き止まり。
右に行くか、左に行くか。
方向を見失った私は、どっちにも進めず壁を見つめて立ち尽くす。

どのくらい、そのまま立ち尽くしていたんだろう。
後ろからくすくすと笑い声が聞こえた。
ゆっくりと振り向くと、そこに。
会いたかった私の恋人が悪戯に笑ってた。

「愛理、何分そんな風に壁見つめてるの?」

・・・そんな事言われてもわかんない。
壁を見つめてたのは、第一舞美ちゃんのせいじゃないか。

私は無言で舞美ちゃんを見る。
その表情はホントに『無』だったと思う。
頭の中はからっぽだ。考えるとか思考というものは何処かに置いてきてしまったみたいだ。

そんな私の表情を見て、舞美ちゃんは笑うのをやめた。
そして一歩、一歩。ゆっくりと近付いてくる。

「や、だ。」

それを拒否するように後ずさる。
でもすぐに背中が壁にぶつかって、これ以上下がれなくなる。
舞美ちゃんは私のすぐ目の前に立つ。
大きな目が私を捕らえた。
思わず顔を伏せると、舞美ちゃんの腕が伸びてきて、そのまま抱きしめられた。

「愛理。」

舞美ちゃんのにおいが嫌でも鼻を掠めて・・・呼吸するたびに舞美ちゃんのにおいしかしなくなって。
胸の奥がぎゅーって痛んだ。

「愛理。遠くに、行かないでよ。」

その声は消えそうなくらい悲しい音で、顔を上げたら舞美ちゃんは顔を歪めて必死に笑顔を作る。

---私達、何処でこんな風に方向を見失ったの?

舞美ちゃんの背中に腕を回したら、余計にぎゅっと抱きしめられた。
「愛理」って私を呼ぶ声は、以前とやっぱり違っていた。
その声に、心が反応した。



好きで、好きで好きで。どうしようもなくって。
だからこそ、いろんな事を考えたり嫉妬というしがらみに取り付かれて見失ったり。
だけど、あの時。告白された時の、気持ち。
どんな風だった?
思い返せば、ただただ好きだっていう気持ち。溢れて止まらない想い。
私はそれさえも、見失っていた。

「私の事、好き?」

こんな事聞くのはずるいと思った。
私の首筋に舞美ちゃんの熱い息がかかる。

「好き。」

たったこれだけの短い言葉なのに、私は嬉しくてそして切なくて。
とめどなく溢れる想いが、すぐそばにいる舞美ちゃんに届く幸せを噛みしめた。

願いが叶っても、人はまだそれ以上の幸せを求めて、それはきっと永遠に続く。
だけど、忘れちゃいけない気持ちもあるんだって、いつだって気づかせて。
その相手は、舞美ちゃんしか、いないんだから。



END