意地悪

大人数の中、どこにいるかわからない藤本さんを、必死に探して探して・・・。
すれ違いに松浦さんに会って、一緒にいないとわかって。
もしかしたらひとりでいるのかな?って思ったら、楽屋にいた。
みんな、最後の思い出に・・・って、廊下やロビーでわいわい写真撮ったりしていて、楽屋には誰もいなかった。

楽屋のドアを閉めたら、ドアの向こうでの騒がしさが急に遮断されて、少し緊張した。
目の前の藤本さんは、きょとん、とこっちを見てる。
私を見てる、その目は優しくて、胸の奥からこみ上げてきたものが、言葉になる。



「藤本さんが好きなんです。」
「・・・うん。知ってる。」



少しの照れを含んだ、意地悪な笑顔でそう言って・・・いつもこんなカンジで。
相手にされてないような、だけど私の気持ちは容認されているような。



「ねぇ、写真撮りましょうよ。」
「・・・やだ。」



そう言って、ホントにどっか行こうとするから、慌てて腕をつかんで引き止めた。
冗談だったのは、その意地悪な顔つきでわかった。



「それじゃあ、うさちゃんピースで・・・」
「やだ。」
「いいじゃないですかー。」
「やだ。」
「じゃあ、行きますよー。うさちゃんピース!」
「・・・」



カシャリ。



「ちょっとぉ。藤本さんっ!」
「やだって言ったじゃん。」



最後くらい。
最後くらい、なんだかんだ文句言いながらしてくれると思ってた。
でも、してくれなかった。



「あーぁ、痛い痛い。」



そう言いながら去っていく後姿は、やっぱり自由で・・・藤本さん、だった。
何も変わってない、その自由さが羨ましくもあり、懐かしくもあった。

写真の中で、張り切ってうさちゃんピースしてるさゆみと、不貞腐れた顔してる藤本さん。

最後くらい・・・ちゃんと写真撮ってくれたっていいのに。

少し、胸が痛かった。
好きだって言っても、相手にしてもらえなくて。
どう思ってるのかもわかんなくて。

思い切って、ここに来たつもりだった。
何度となく、好きだって言ってきた。
それは冗談なんかじゃなくて、いつも本当の気持ちだったのに。

--どう、思っていますか?

そう呟いた声は、藤本さんは届かない。

ため息をついて、楽屋を出ようとドアのノブを回したら、目の前に藤本さんがいた。



「うわっ。びっくりした。」
「出てくるの、遅い。」



なんで怒られたのかわかんないけど、不機嫌そうな顔していて。
そのまま私を楽屋に押し戻して、藤本さんも入ってきた。
どうしたのかな?って思ってたら、手にしてたデジカメを奪われた。
デジカメを操作する指が綺麗だなーなんて思って見てたら、ピピッて音が。

え?ええ?

さっき撮った写真が消去された。



「どう、して。」



そんなに嫌でしたか。写真撮るの。
そんなに嫌でしたか。私の事が・・・。

苦しい。どこかわかんないくらい、苦しくて。
思わずこぼれた涙に・・・藤本さんが困った顔してる。
見られたくなくて、楽屋を出ようとしたら、すっと腕が伸びてきて抱きしめられた。



「違う。嫌だったんじゃないよ。」
「だったら、どうしてっ。」
「さっきのは、ナシ。ちゃんと撮ろう?」



その腕のぬくもりも、その優しさも、ずるい。



「特別だからね。うさちゃんピースでいいの?」
「・・・はい。」
「・・・そんな顔すんなよぉ。」



涙をぬぐってくれる指先は、やっぱり綺麗で。
私の顔を見てる顔は、やっぱり少し意地悪。



「じゃあ行きますよ。うさちゃんピース!」



カシャリ。



「えええええええ。」
「ふふっ。最後だから、特別。」



うさちゃんピースしてくれなかったじゃん。
やっぱり最後までしてくれなかった。

でも代わりにしてくれた、キス。

頬に当たった柔らかい感触。
ふわりと舞った香り。
抱きしめられた感触。



「その写真、大事にしなよ。」



そう言って、楽屋を出て行った藤本さんは、やっぱり意地悪でずるい。
だけど、そういうところ嫌いじゃなくて、どっちかっていうと好きで。
どっちかっていうと、というか。好き。



「藤本さーんっ!」



楽屋を出たら、みんなの輪の中でわいわいしてる藤本さんがいた。
駆け寄って腕に絡みついたら、やっぱり嫌な顔されたけど、腕を振りほどかれることはなかった。



END