いつもより早く起きた朝は・・・

わずかなカーテンの隙間から、朝の柔らかい日差しが入り込んでいる。
美貴はめずらしくこんな時間に目が覚めた。
枕元にある携帯を開く。5:34。

んー・・・もう一度寝ようかな。
今日は休み。いつもだったら昼前まで余裕で寝てる。
でも、亜弥ちゃんは今日朝早いとかって・・・。


こう見えても美貴は寝起きがいい。
ベッドから降りてそのまま窓を少し開けた。
少し冷えた風が、柔らかな日差しが、ゆったりと心地いい。

大きく伸びをひとつ。
ついでに大きく欠伸をひとつ。

パジャマのまま、キッチンに向かった。
料理とか苦手だけど、お味噌汁とか作っちゃおうかな。
亜弥ちゃん、喜んでくれるかな。えへへ。

冷蔵庫を開けて、とりあえずミネラルウォーターを一気に飲んだ。
のどを通って胃に染み渡る冷たさが、俄然やる気を出させた。

「えーと・・・あれー・・・。」

普段料理をしないふたり。
冷蔵庫にお味噌汁の具になりそうなものが、ない。
でも、こうなるとどうしても作りたい。

「行くしかないか。」

幸い、コンビニがすぐ近くにある。
美貴は、ジャージに着替えて帽子を深く被って、外に出た。
相変わらず、日差しが柔らかい。
空は少しだけ高い。

いつも朝が早い時は仕事で、眠い目をこすりながらこんな風に朝の気持ちよさなんて感じる事もなくて。
朝の静けさも、ただ眠りを誘うものでしかなかった。

コンビニからの帰り道、鼻歌も絶好調。


手のひらに豆腐を乗せて、包丁を入れる。
何だか不恰好になったけど、まぁいっか。
だしを入れて豆腐を入れて味噌を入れて。
ああ、いいにおい。
やっぱ朝はお味噌汁だよね。
ご飯は・・・これから炊いても間に合わないから、おにぎりを買ってきた。

うん、上等じゃん。

凝ったわけじゃない、豆腐しか入ってない味噌汁。それとコンビニのおにぎり。
それでもすがすがしいやり遂げた感があった。


使い終わった包丁を洗っていたら、亜弥が起きてきた。


「亜弥ちゃん、おはよー。えへへ。」
「・・・何してんの?」
「ダーリンの朝ごはん用意してたの。」
「・・・はぁ。」


テンション低っ!

でも、まだ完全に起きていない亜弥の鼻は、お味噌汁のにおいをとらえていた。
いつもは朝ごはんを食べない亜弥も、何も言わずに素直にそのまま席に着いた。
美貴はお味噌汁とおにぎりを亜弥の前に置く。

ああ、なんかこれって新婚さんみたいじゃない?


「たん・・・。」
「ん?何?」
「にやにやしてきもちわるい。」


きもちわるい・・・。
ご飯用意してくれてありがとう・・・とか、じゃないんだ・・・。
少なくとも亜弥は新婚さんみたいとか・・・思ってないらしい。

それでも律儀にいただきますとか呟いて、ご飯を食べだした。


「ね、お味噌汁おいしい?インスタントじゃないんだよ!美貴が作ったんだー。」
「・・・まだ飲んでないし。」
「ねぇねぇ、早く飲んでみてよぉ。」
「・・・。」


ずずず。


「どう、どう?」
「たん・・・うるさい。」


頑張って作ったのにな・・・喜んでくれるかなって思ったのに。
たん、おいしいよ!って言って欲しかった。ううん、おいしいじゃなくてもいい。喜んで欲しかったんだ。
それはただの美貴の自己満足かもしれない。
でも、亜弥の喜ぶ顔が見たかったんだ・・・。

美貴は亜弥の向い側に座って、無言でご飯を食べだした。
うん・・・お味噌汁の味、悪くないよ。おいしくもないけど。

迷惑だったのかな、うっとおしいかな。

さっきまでの、気持ちのよさが何処かへ消えてしまっていた。
晴れていた空も、雲ってきて。
ただただ、口の中におにぎりを入れた。

亜弥が食べ終わって、また律儀にごちそうさまって呟いた。
そして、まだもぐもぐ食べてる美貴の顔をじっと見てる。


「おいしかったよ。」


亜弥はそう言って、箸とお椀を持って立ち上がった。
亜弥のその一言で、胸の奥から、熱いものが込み上げて来た。


「亜弥ちゃ・・・。」
「たんにしては上出来。今度はご飯も炊いてね。」


美貴は立ち上がって、亜弥に抱きついた。
よしよしって頭を撫でてくれる手が優しい。


「亜弥ちゃ・・・迷惑がってるのかなって・・・。」
「お前、かわいいなぁ。」
「亜弥ちゃん・・・亜弥ちゃん・・・。」


顔を亜弥の肩にこすりつけるように埋ませる。
亜弥のにおいがする。
ぎゅうって力を込めて抱きしめたら、返してくれる力が嬉しくて。
ねだるように、唇を寄せたら、ゆっくりと唇が重なって、お味噌汁の味がするってふたりで笑った。



今度はご飯も。
うん、今度はちゃんとご飯炊いておかずも作るよ。

でもそれはいつになるかな・・・。

いつもより早く起きた朝は、いつもより少しだけ特別な朝。



END