君の記憶の胸元に

ピピピピピ・・・!

急に頭の中に機械音が響いてぼんやりとした意識の中で目を覚ますと、横ですやすやと気持ちよさそうに眠る舞美がいた。
今日はお互いライブがあって、舞美は移動時間があるから私よりも早起きしなきゃいけないはずで、アラーム音が鳴っているのは舞美の携帯だった。
布団から半分出た体制で寝顔を見つめながら舞美が止めてくれるのをしばらく待ってみたけれど、舞美は「うーん」とか声にならない声で唸ってもぞもぞしている。
そのうちに目が覚めてきて意識がはっきりし出して、やたらそのアラーム音が耳についた。

まるで、この時を、打ち切られてる、みたいな。

「舞美。起きて。アラーム消してよ。」

体を揺らしてみると、舞美がうっすらと目を開けて私を見る。
ただ寝起きなだけ。そう思っても思い出すのは昨日の、行為中の舞美だった。
昨日の記憶とアラーム音で頭の中がぐちゃぐちゃになっておかしくなりそうだった。

「アラーム止めるからね。」

人の携帯を見るのは趣味じゃない、だからそう断ってアラームを止めると画面は待ち受けに変わる。
見るつもりではなかったけれど目に入ってきたのは、私と舞美の写真だった。
事務所でたまたま会った時に嬉しくてテンション上がって撮ったものだった。
こんなかわいい事してたのか、と思うと恥ずかしい反面嬉しくて愛おしく思えた。
なかなか会えないから。だから。私も同じように会えない時に舞美の写真を見る事があった。
同じ気持ちでいれることが嬉しくて心が温かくなった。

「舞美、もう起きないと・・・。」

ぱたん、と携帯を閉じて再び体を揺らすと舞美の目が徐々に開き始めた。
連日のリハーサル、その他の仕事。お互い疲れていた。
しかも舞美が家に着いた頃はもう日付が変わっていて、私も帰宅したばかりでシャワーを浴びてすぐにベッドに入った。
それからホントは近状を話したりしたかったんだけど、でも・・・いろいろで。終わった後はお互いすぐに眠りについていた。
これじゃあ余計疲れさせたよなぁって思うけど、そうでもしないとなかなか会う事が出来なくて。

そんな事を思いながらぼーっと舞美の顔を見てたら、いつもの爽やかな笑顔ではなく、にたーっとした顔で笑って。
布団から細くて長くて、でもがっしりとした腕がすらりと伸びてきて。
いつの間にかその腕は私を捕まえていて。

「30分早く目覚ましかけたんだ・・・だから。」
「・・・えっ!」

半分布団から出ていた体がものすごい力でガーッと引きずり込まれる。
温かさに包まれたのは布団の中に入ったからだけじゃなかった。
私の好きな、大好きな温かさと匂いに頭の中がくらくらする。
昨日も、何度もした行為が頭の中を体をも支配する。

「まぁ、しよう?」

私の返事は口にする事が出来ずに塞がれた唇の柔らかさに目を閉じると、もう止まる事は出来なかった。
離れた唇が頬をなぞるように伝って耳元に当てられた時に感じた熱い息と囁きに、カラダの奥から痺れに似たものが込み上げて来た。
同時に込み上げた幸せな切なさはどうしたらいいだろう。

「舞、美。」

掠れた声が届いてその音にきゅっと笑う舞美が愛おしい。
この時間がずっとずっと続けばいい。だけどそうもいかない事もわかっている。
わかっているからこそ、大事にしたくて。

ぬくもりを。匂いを。感触を。この気持ちを。会えない時間を。

全部をぶつけるみたいに触れた。触れられた。
こんなに満たされてなお切なさも消えない。



泣きながらした行為の味はやっぱりちょっとしょっぱくて終わった後に笑えて来た。
一緒に家を出て何気ない話をして、駅で別れた。
笑顔でぶんぶん手を振る舞美をいつまでも見ていたかったから自分から先に背を向けた。
それでもきっと舞美は私が見えなくなるまで手を振っているんだろうと思った。

次、いつ会えるかわからないふたりだけどそれでも幸せを感じれる喜びで胸が熱くなった。



END