記憶。

冷たい風が運んでくる、体だけじゃなく心も震えるこの感情。

少し高くなった雲の多い空。
柔らかくなった日差し。
行き慣れていた場所の風景。

--その時の、想い。


いくつかの季節を越えてもなお、体と心で覚えている記憶。


私は笑って、君の手を引いた。
決して離れることはないと、強く握った手は温かくて。
これ以上ないと思っていた。何もかもがカラフルで、何もかもがキラキラしていた。


ひとりで歩く道は、どうかな。
行き慣れていたあの場所へは、きっともう行く事はないんだろう。
それでも、それに未だに引きずり、思い出しては込み上げる。






「たんとずっと一緒にいられるかなぁ?」
「うん・・・っていうか、どしたの?急に。」
「うーん。何となくね。」
「ヘンな亜弥ちゃん。」
「たんに言われたくないよーだ。」
「どういう意味ー!?」

そばにあったクッションを投げつけて、いつの間にかお互いにムキになって、クッションがかわいそうになるくらい投げ合って。
そしたら急に笑いが込み上げて、美貴はクッションを抱きしめて笑った。
不服そうな亜弥が、口をアヒルみたいにしてこっち見てたから、美貴もアヒル口を真似して見せた。
そしたら亜弥が笑い出したから、美貴は嬉しくてずっとそうしてたら「たんがやってもかわいくないよ」とかムカつく事を。
美貴が再びクッションを投げつけたら、それを受け止めて妙に神妙な顔をした亜弥。

「ずっと、こんな風がいいな。」

美貴は、その言葉に表情も言葉も失って、愛しい人を抱きしめた。






あの頃から、当たり前だけど気持ちも状況も、たった数年だけどいろいろ変わって。
それでもあの時に思った気持ちは、お互いに嘘でもなくて。
それがわかるから、ちょっとだけほろ苦いような苦しいような、そんな気持ちになるのかな。
記憶は美しく残こるものだ、みたいな事を歌った歌詞が誰かの歌にあったような気がする、そうなのかもしれない。
気持ちは変わるものなんだ、良くも悪くも。

いつまでもそのままではいられなかった、ただそれだけの事なのに。



END