心の中を見抜いて欲しい

眩しくて暖かい太陽が、目覚めた世界にキラキラと光を注いだ。
私はいつもこのキラキラした世界を見るのが好きだった。
だから、こんな日はいつもよりもたくさん走りたくなる。
息を切らして、汗を流して、それでも気持ちよくって、立ち寄った公園で大きく伸びをしたら、たくさんの光が私に降り注いだ気がした。



家に帰ってきたと同時にお腹がぐぅって鳴った。
早くシャワーを浴びたくて、着替えをごそごそ探してたら、ベッドから「うーん」って声が聞こえた。

「あ・・・ごめんなさいっ。起こしちゃいましたか?」
「うー・・・。」
「あの、シャワー浴びてきますから。」
「ちょ・・・こっち・・・来て・・・。」

まだ寝ぼけた声が聞こえて、何だろう?なんてベッドに近寄ったら、突然ガバっと藤本さんが視界いっぱいに見えて・・・。
気がついたら、私の体はベッドの中で、しかも藤本さんの腕の中にすっぽり埋まっていた。

「あのっ。私、まだシャワー浴びてなくって。汗くさいんです。だから・・・。」

なんて。
私の言葉なんか聞こえてないはずないけど、でも聞こえてないみたいに、藤本さんは私の唇を奪った。
同時に、ぎゅうって強く抱きしめられて・・・。
抵抗してみたけど、寝起きなのにすんごい強い力で。
やっと解放された唇が、熱を持つ。

「唇までしょっぱいんだけど。」

藤本さんがそう言って笑うから、なんだかすごい恥ずかしい。
だから・・・シャワー・・・。
そう言葉が出かかって、また唇を奪われる。

「舞美が運動してきたの見たら、私も運動したくなっちゃった。」

悪戯に笑う藤本さんを見て、もう一度シャワーって言ったけど、それはあっさりと却下されて。
時々しょっぱいって笑われながら・・・。
藤本さんの手に、ぬくもりに、全てに・・・果てた。



「舞美は朝からハードだねぇ。」

そう言って、少しだけ愛おしそうに藤本さんは私の髪を撫でた。

この行為を、お互いにスポーツだ、なんて言ってからずっとこんな関係で、決して恋人とかそんなんじゃなくて。
だから、藤本さんがいつ誰と。そういう事をしてるかなんて知らない。
知らなくていいと思ってる。だからこうしていられるんだって。

さっきまで忘れていた食欲が動き出して、ぐぅってお腹を鳴らしたら、お腹を撫でられた。

「んじゃ、美貴がなんか作ってあげるから、シャワー浴びといで。」

頭をぽんと叩かれて、部屋を出て行った藤本さんのにおいだけが残っていて・・・。
そしたらまた恥ずかしくなって、私は慌ててシャワーを浴びに部屋から出た。



シャワーから出たらすごいいいにおいがして、鼻をくんくん鳴らして居間に行ったら「犬かよ!」を突っ込まれた。
目玉焼きとハム。それだけだったけど、とてもおいしくて。

「んー。おいしいっ!幸せー。」

って呟いたら、にこにこ笑う藤本さんに・・・。


---ああ、ダメだってば。


ずっと、気がつかないようにしてたのに。
ずっと、そうしてきたのに。
こんな不純な理由もダメだって。
ずっと、思ってたのに・・・。

落ちる瞬間はあっという間で、理由なんかもなくて・・・。

心が揺れて、同時に少し切ない気持ちが込み上げて。
ご飯がおいしくて余計に泣きたくなって。

だからまた走りたくなって。

そう言ったら、運動バカって言われて、それでもこの切なさは消えない。
消えるまで走るには、どのくらい走ればいいのかな?
一生走らなきゃ、ダメかな・・・。

靴紐をいつもよりきつく結んでたら、背中越しに温かいぬくもり。

「早く帰っておいでね。」

ああ、どうすればいいんだろう。
私、今からどれだけ走ればいいんだろう・・・。

そんな気持ちなんて全然わかってない藤本さんは、そんな私の背中を笑顔で見送ってくれた。



END