くちびる

--重なった唇が熱かった。



柔らかい感触が唇から全身に駆け抜けて、甘く痺れさせる。
無意識で漏れた声で離れた唇を、無意識で目で追う。
その先にあった藤本さんの、顔。
口の端だけで笑ってるような、挑発する、意地悪な顔。
してやったり、って言われてるみたいで、私は少しだけ悔しくなる。

だけど、私の腕を掴む手が、微かに震えていて。
吸い込まれるように、藤本さんの目を見たら、再び重なった唇。



--重なった唇が熱かった。



震える腕を包み込むように抱きしめたら、藤本さんの腕の力がすっと抜けた。
それと同時に、漏れたのは藤本さんの声。

その声を聞いて、私の中で何かが弾けた。

夢中になって、求めた。
唇も、藤本さん自身も。
それに答える藤本さんの熱さが、さらに欲しくなって。
ただ、夢中だった。



「はぁ・・・。」

急に離された唇。
藤本さんの顔が、さっきと違った。
意地悪に笑う、あの余裕な表情はどこにもなくて、ただ呼吸をするだけで精一杯の。
妖艶に色づいた顔が赤くて、それを隠すように藤本さんは私の胸に顔をとん、って置いた。

「苦しい。」

発した声さえも、熱くて。

「どうして、ですか?」
「どうしてだろうね。」

再び掴まれた腕。
痛いくらい、力いっぱい掴まれた。
だから私は、もう一度さっきのように抱きしめた。
私より少し背の低い藤本さんの、全部を包み込むように抱きしめた。

少しずつ力が抜けていくのがわかって、頭を抱え込むようにぎゅうって自分の胸に引き寄せた。
熱い息がかかって少しくすぐったい。

「さゆ・・・胸柔らかい。」
「藤本さんのえっち・・・。」
「いひひ。」

わざと顔を押し付けるように胸に当てられて。
跳ね除けようとしたんだけど、きっとまだ顔を見せられないんじゃないかって思ったから、そのままにしてあげた。
そしたら、すごく小さな声で「さゆみ」って呼ぶから。

顔を上げさせたら、まだ赤く色づいている藤本さんの、顔。
お互いが同時に目を閉じて、重なった唇はやっぱり熱かった。



END