ライン

「ジャーンプ!」
「・・・何してんの?」
「ラインを越えたの。」
「・・・ふぅん。」

グラウンドに引かれた白線。
飛び越えて笑いかけた私に、興味なさそうに返事をした美貴。

空が真っ赤で、お互いの長い影がグラウンドに伸びていた。
美貴の影を踏んづけて、踏んづけて、踏んづけて・・・いたら、美貴が怒って私の影を同じように踏みつけた。

踏みつけたのは、美貴の、胸。心の中。
ひょい、と飛び越えたのもまた、胸。

「ジャーンプ!」
「さっきからジャンプばっかり。」

美貴はまた興味なさそうにそう言って、影を踏むのを止めた。
つまんなそうに空を見上げた美貴の顔が、赤く染められていて、とても綺麗だと思った。

「好きだよ、みきたん。」

その言葉に、ふと美貴の表情が厳しくなって。
私を見る目が・・・赤い。

「何、ソレ?」

やっぱり興味なさそうに、でも表情が少しだけ和らいで。

「覚えとけ。私はみきたんが、好き。」
「えらそうだなぁー。」

そう言って笑った美貴は、恥ずかしそうに微笑んで、そっと私の手をつかんだ。



◇◇◇



--覚えてるかな。

あれからふたりのカタチも、気づかないくらいになんとなく少しずつ、変わった。
お互いを大切に思いながら、助け合いながら、支えあいながら。
危うい距離を、保ちながら。

あの時、飛び越えたラインは、綺麗な白で。
これからずっと、思い続けていくという、証。
例え、この先何があっても。
だから、何も心配いらない。何も問題ない。
必要以上に手も出さないし、だけど一番大事な時は離れててもそばにいるから。
そういう時に、思い出してくれるだけでもいい。
いつでも両手広げて、待ってる。


愛とかそういう言葉じゃ、収まらなくて。

いっそ、恋愛だったらもっともっと簡単だったのかもしれない。





◇◇◇



「美貴も、好きだよ。亜弥ちゃんが。」
「知ってるしー。」

美貴の頬が赤いのは、夕日に照らされているからではなかった。
不機嫌そうに見えるのは、恥ずかしいからで。
その頬をつんつんつっついたら、頭を叩かれた。

「もう、ずっと・・・一生だから。」
「一生とか、重い。マジ勘弁。」
「ひどーい。だってもうライン越えたから。」
「意味わかんないし。」

美貴の腕をひっぱって、抱き寄せたら、ふわりと舞った香りが苦しいとか。
今は考えないようにして、空を見上げた。


胸の中にある、燃えるような赤い空が、一面に広がっていた。


END