ヌケガラ

覚えてる。

あの時のあたたかさも、苦しそうに呟いた声も、一筋だけ流れた綺麗な涙も、最後に触れた手も。

溢れた感情は、それでももう取り戻せないとわかっていた。

もう一度、繋ぎたかった手は、もう二度と繋げない。






寝たのかどうかもわからずに、意識を完全に取り戻すと、部屋の中はすでに明るかった。
カーテンを閉める事も忘れてたんだと気がついて、おかしくもないのに笑えた。
そしてぼんやりと、そしてやがて、はっきりと浮かんでくる、亜弥の・・・。

「そっか・・・。終ったんだよね・・・昨日に。」

まるで、何も変わってないみたいな朝。
自分だけが、時間の中を彷徨っている。

次の日の朝を迎えたのに、私だけ昨日にいるような。

もしかしたら昨日だったんじゃなくて、今見た夢なんじゃないか・・・なんて考えて。
いや、それはないとはっきりと言えるのは、覚えてるから。
と、同時に胸に溢れてくる感情。私を狂わせるような、鈍くてそれでいて鋭い感情。

「さすがに・・・キツいなー・・・。」

携帯を開いたら、幸せそうに楽しそうに笑う亜弥と私がいた。
画面の向こうに行きたくて触れてみても、当たり前だけど何もない。

そう、何もない。

亜弥ちゃんいなくなって、どうすればいいんだろう。

ひっそりと、寄り添うように一緒にいた。
寄りかかりすぎていた。
全てだった、なんて大袈裟だと言われても構わないくらい、私の全てだった、のに。

「どうすればいいんだよぅ・・・。」

今更、私を手離すなんて酷すぎる。
そうだそうだそうだ全くその通り。

なんて歌が流れてきて、ため息をついた。
くだらな・・・。



ベッドから起き上がって、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、一気に飲み干した。
喉も体も渇いていた。
喉は潤せても、体までは潤せない。

「はぁ・・・。」

ソファーにどかっと体を預けたら、徐々に体が沈んでいった。
何処を見るでもなく、視線を動かすと全てが亜弥に繋がっていて、悔しくて泣けてきた。

「あぁ・・・もう・・・。」

泣きすぎてまぶたが痛い。
ひりひりするから、涙を拭うことはやめて、ひたすらに流した。
頬を伝って落ちていくその雫は、止まることを知らないみたいだった。
まるで、私をバカにしてるみたいに。
その涙を両手で受け止めたら、熱くて自分では手に負えないくらいだったんだと思い知らされた。






今頃、何をしているだろう。

新しい朝を、ちゃんと踏み出しているだろうか。
時は、進んでいるだろうか。

思うのは、亜弥の事ばかりだった。嫌になるくらい。

でも私の全て、だから。
自分が抜け殻になってしまわないように。



だから、ダメになったんだとわかっていても。



END