林檎の蜜



がぶりっ。
りんごを丸かじりするちぃに私は笑ってしまう。

「固い!歯!痛い!!」
「もっと男らしく食べてくれると思ったのに。」
「えっ、だってこれすごく固いよ!」

ちぃの手にある、皮がちょっとだけめくれたりんごを見つめる。
見れば見る程おもしろくて笑うとちぃは不満そうに頬を膨らませて無言でりんごを差し出す。

「ん?」

食べろ、と言わんばかりの顔でぐいぐいとりんごを押し付けてくる。
仕方なくりんごを受け取ると今度はにやにやしながら私を見つめる。
笑いすぎたせいで私も全然食べれなかったらどうしようっていうプレッシャーの中、思い切ってりんごにかぶりつく。

がぶりっ。
しゃきっ。

「んふふ、おいしいよ?」
「えー!なんで食べれるの?キャプテンの歯何で出来てるの!?」
「普通の歯だってば。」

えー?なんでどうしてー?って不思議そうに私の歯を見ようと屈むちぃ。
あんまりまじまじと見られる事がないところだからか恥ずかしくて口を閉じるとあからさまにしょんぼりされる。

「見せてよー。」
「今はだめ。」
「何で??」
「何か、恥ずかしいし。」
「恥ずかしい?歯だよ?」

ちぃが不思議そうに首を傾げて私の顔を見る。だって、何か恥ずかしいの、わかんないかな。
屈んだままのちぃの耳にそっと唇を寄せると、ちぃの体がちょっとだけ固くなる。

「夜に、見せてあげる。舌で触って確認してもいいよ?」

離れるとちぃが思いっきり真っ赤な顔で目をまんまるにして私を見る。その熱が伝染して自分の顔も、真っ赤だろう。
顔だけじゃない、全身が熱い。何言っちゃったんだろうって思ったけどちぃが悪い。
恥ずかしいから顔も見れなくて背中を向けて歩き出すと、慌てて走ってくるちぃの足音。
何て言ったらいいかきっとわかんなくていつもうるさいちぃが静かに隣で歩いてるのがとても愛しく思えた。



END