ロマンス

『会いたいな・・・』

夜中に突然来たメールに驚いて電話をしたら、部屋にみんないるからってすぐに電話を切られた。
そうだ、今日は地方でライブの日だった。すぐに思い出せない程舞美と会うどころか会話もしてないんだって気づかされた。
それからしばらく携帯を手に持ったまま待ってみたけど、結局舞美からメールが来る事はなかった。



「おつかれー。」
「がんばってねー。」

向こうから歩いてきたみやと軽くハイタッチをしてすれ違った。今日はひとりひとり撮影で次のみやで最後。
いつもより何だかご機嫌なみやに思わず笑えてきて頬が緩んだ。
静まった廊下を歩いて誰もいないと思っていた楽屋に戻ると、ちぃがドアが開く音に気がついて待ってました!とばかりの笑みで振り向いた。

「まぁ、おつかれー!」
「ってびっくりしたー。どうしたの?」
「まぁの事待ってたんだよ。」

それは珍しい・・・。
先に撮影が終わったのにわざわざ待ってたとか・・・何か裏があるんじゃないか?
私がちょっと構えてみせると、ちぃはそんな私を指差して笑う。

「そんな構える話じゃないってー。」
「じゃあ、何?」
「みやの撮影終わったらこの前3人で話してたカフェ行かない?」

・・・ああ、なんだ。

一気に力が抜けて、とりあえず椅子に座ってテーブルをはさんでちぃと向かい合う。
飲みかけのお茶をごくごくと飲んでいたら、ふと舞美の顔が思い浮かんだ。
今日の撮影は割と早く終わるから時間が合えば舞美と会おうかと考えていたからだ。
あのメールが来た日から、いつものように舞美からは当たり障りのないメールのやりとりが行われていた。
今日楽しかった事や、出来事・・・『会いたい』だなんてあんなメールを送ってきたとは思えないくらいに、普通な。
だからこそ余計に苦しくて、会いたいのを我慢している気がして、愛おしくて。

そして何より私が会いたくて。

衝動的に少しでもいいから会いたくなって、今日会わなければいけない気がして。

「ごめん・・・今日、無理だ。」
「えええええええ!みや、めっちゃ楽しみにしてたのに!」
「また別の日に!ごめん!」

みやだけじゃなくちぃも楽しみにしていたんだろう。
わかりやすく頬を膨らませてぶーぶー言ってる・・・と思ったら急にがばっと立ち上がって私を見下ろしてにやにやする。
忙しい人だな、と思ったら思いもしない言葉が上から降り注いだ。

「・・・もしかして、舞美?」

ちぃの勘の良さに心臓がどくどくと早くなるのを感じた。
顔が熱い・・・胸の奥が詰まるような感覚が体中を襲う。

「まぁ、わかりやすい。」

ちぃがからかうように私の反応に笑って、熱くなった私の頬をつっつく。
それがスイッチみたいに、思考を取り戻した。
このままからかわれるなんてごめんだ。
ちぃの手を払いのけると、それでもにやにやしてるから悔しい。

「相手が舞美なら仕方ないけどさー・・・みや、がっかりするだろうなぁ。」
「みや、そんなに楽しみにしてたの?」
「ちょうどケーキが食べたかったみたいでさー。撮影も早く終わるしーって。」

そう言えば、さっきすれ違った時すごく機嫌が良かったのを思い出した。
そういう事だったのか・・・そう思うと胸が痛む。
でも、だから。というわけにはいかなかった。
舞美のため、というよりも自分の為に、だ。

「うまく断っておいて・・・くれる?」
「オッケー!そのかわり今度ここのケーキおごってね!」

しぶしぶ頷いてみたけど、今日ばかりはちぃに感謝した。何か悔しいのはなんでだろう。

「あ、そうそう。舞美は今日事務所にいるみたいだよ・・・って知ってるか。」
「そう、なんだ?」
「え?知らなかった、の?」

言葉が出なかった。ちぃが予定を知っているのが悔しかった。
ふたりが親友なのは知ってる。だけど、だけど。比べるものじゃないものわかってはいるけれど。
ちぃの顔からいつもの笑顔が消えた。
それを見ていられなくって、さっと立ち上がってカバンを手に持った。

「後、よろしくね。」

勢いよくドアを閉めたら意外にも響いた音にびっくりした。
舞美に会えば、全てが吹き飛んでしまう気がした。

早く、会いたい。



END