ロマンス 地下鉄から外に出ると雨が降っていた。
舞美みたいだな、と思って思わず苦笑いをする。 隣のコンビニで差し入れのお茶とお菓子をメンバー全員分買って事務所に向かおうとして、ふと足が止まった。 連絡もなしに急に行っていいものか、それに事務所に用事なんかない。スタッフのみんなも変に思うんじゃないか。 余計な思考が頭の中を支配し出す。 別に舞美に用事があるって言えば誰も何も変に思わないはずだ。いつもならそうしてる。 だけど今日はそう言えばいいと思えなくて素直じゃない自分がもどかしい。 そうしてる間にも時間は流れて行く。 雨の降りは弱い。 だけど足が動かなくて徐々に体が濡れていく。 じっと事務所のドアを見ながら立ち止っていると、そのドアが急に開かれた。 びっくりして、動けずにいると姿は見えてないのにわかってしまった声。 姿を見せた舞美もまた、私の姿を見て驚いて動けずにいるようだった。 「まあさちゃん?」 舞美の隣にいた舞ちゃんだけがあまり驚いた様子もなく私に話しかける。 その舞ちゃんの声で急に舞美が動き出した。 カバンからごそごそとハンドタオルを取り出すと、私のすぐそばで立ち止まる。 至近距離で目が合うと、舞美は困ったように笑った。 何だか泣きたくなる。そんな顔をさせてしまったのは私のせいだ。 一瞬だけ伏せられた目。まつ毛がうっすら濡れているのは雨のせいかわからない。 不謹慎にもそれが綺麗だと思う。 「まぁ、傘持ってなかったの?」 すらりと長い手が伸びてきて、タオル越しに感じるのは舞美の体温。 いつぶりに触れられただろう、懐かしいとさえ思うぬくもりにただただ胸が苦しい。 一通り私の髪を拭いて見せた笑顔が泣きそうだった。 見ていられなくて、抱きしめてしまいそうで慌てて言葉を紡ぐ。 「こ、これ、差し入れ!」 買ったばかりのお茶とお菓子を中身が見えるように舞ちゃんに見せると、自分が食べたかったお菓子が入ってたようで子供のように喜んでいる。 「今、ちょうど舞美ちゃんと買いに行こうと思ってたところだったんだぁ。」 「そっか、よかったー。」 ちらりと舞美を見ると、私を見て微笑んでいた。 理性とかいろんなものを吹き飛ばして感情のままにしてしまいたい。 その気持ちをぐっと抑えて、3人で事務所に入った。 舞ちゃんを中心に笑いながら会話をして控室に入ろうとした瞬間、舞美が私の腕をぐいっと掴んだ。 「イタタタタタタ!」 思わず声に出たけど、舞美はそんな事気にしていなかった。 「ちょっとまぁと話あるから舞ちゃん先に入ってて?」 そう言い終わったと同時に腕を引っ張られる。 そのままされるがままに腕を引っ張られて開いている控室に入った。 腕を離されるとそこがじんじんと痛んだ。 この痛みは舞美の痛みだと思った。 たいした距離を走ったわけじゃないのに妙に息が苦しい。 「ま、舞美?」 「まぁ・・・。」 細い腕が伸びてきて、私の体は簡単に舞美の中に収まった。 もっと息苦しくなって空気を求めるように、舞美の唇に触れた。 その瞬間にお互いを抱きしめる腕の力が増した。 もっともっと、とねだるように、どんどん強くなる力が息苦しくてなんて幸せだろう。 「会いたかった。」 離された唇で囁かれた言葉が体中を痺れさせる。 力任せにまた唇を奪って抱きしめると、舞美がとんとんと胸のあたりを叩く。 「どうした?」 「まぁ・・・痛いよ。」 舞美が頬を赤らめて幸せそうに笑う。さっきみたいな切なくて泣きそうな笑顔じゃない。 それが嬉しくて何もかもが全部吹き飛んだ瞬間だった。 突然会いに来てごめん、とか。会いたかった、とか。 言おうと思ってた言葉全部もういらないと思った。 だからもっともっと舞美を感じさせて欲しい。 今度は私から抱き寄せて腕の中にしっかりと収める。 恥ずかしそうに目を閉じた舞美が求めるがままに、ゆっくりと唇に口づけた。 END |
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