桜サク D

あれから私と舞美ちゃんは、どこかへ出かけたりお互いの家に行き来したりするようになっていた。
おあずけになったデートはちゃんと実行されて、律儀にお祝いも買ってもらった。
何もいらないって言ったんだけど、ダメ!って強い口調で言うもんだから、素直に甘えた。

そして、それとは別に。くれたものがあった。
舞美ちゃんが何か楽しそうに笑って「ジャジャーン!」って効果音付きで差し出してきたのは、私の高校の制服の、タイ。

「どうして舞美ちゃんがそれを?」
「えへへー。実はこれから愛理が通う高校は私の母校なのですー。」
「うそぉ!」
「今まで隠しててごめんね。これ愛理にあげたくて。驚かせたかったんだ。」

舞美ちゃんが悪戯に笑う。

「そう、だったんだ・・・。」
「あ、そうだ!制服買ったら一番に着て見せてね。」
「でも、舞美ちゃんに見せる前に、たぶん親が見ると思うよ。」

わざと意地悪をして現実的な事を言ってみると、舞美ちゃんが困った顔して「うーん。」って唸る。
それがかわいくて、私は頬が緩む。

「じゃあさ、お母さんも一緒だけど・・・それでよかったら一緒に買いに行く?」

そう言うと、一瞬嬉しそうに笑ったけど「でも、お母さんとふたりで行っておいで」って。
そう言ったのは遠慮ではなくて心からそう思ってるんだろうけど、突き放されたみたで少し寂しい。
だから、一歩前に出て、おねだりをする。
それに気がついた舞美ちゃんは、私をぎゅって抱きしめた。

今は。今は、こんなふたりでいいんだと思う。
恋人ではないけれど、お互いが必要で不可欠な存在。
想い方は違うかもしれないけれど、お互いがお互いを大切で特別に思ってる。
間違いなく、私は舞美ちゃんにとってかなり特別なところにいた。

「あ!そうだ!!」

舞美ちゃんが急に大きな声を出して、嬉しそうに笑う。
何を思いついたんだろう?って思って見てたら、舞美ちゃんはクローゼットを開けた。
手にしたのは、舞美ちゃんがつい最近まで着てた高校の制服。

「ね、今着てみてよ。」

どうしてそんなに私の制服姿が見たいんだろう?
もしかして舞美ちゃん・・・そーいう趣味、あるの?
なんて思ったけど、ただ純粋に見たいだけ、なんだろう。
そんなかわいいリクエストに恥ずかしいけど答えたい。

「じゃあ、ちょっと着替えるから・・・後ろ向いてて。」

さすがに目の前で着替えるのが恥ずかしくてそう言うと、舞美ちゃんの顔が真っ赤になる。
そして慌てて後ろを向いた。
かわいい。って思わず口から出そうになる。

少し緊張しながら着替えて舞美ちゃんに声をかける。
ゆっくりと振り向いた舞美ちゃんの顔が驚いた表情になって・・・そして顔も耳までも赤くして私を見る。
なんだかすごく恥ずかしくて俯いたら、「やばい」って舞美ちゃんが呟く。

「やばい。愛理、かわいい。」

今度は私が顔も耳も赤くする番だった。
好きな人にそんな事言われたら、誰だってこんな風になる。
恥ずかしくて、ホントに恥ずかしくて。でもすごく嬉しくて。
目が合わせられなくて俯いたままの私に舞美ちゃんが「こっち、見てよ」って。
顔を上げたら、同じくらい真っ赤な顔した舞美ちゃんが私を見てた。

「なんか、いけないことしてるみたい。」

舞美ちゃんは笑って言うけど・・・なんていうか。
何も考えてないのか時々舞美ちゃんがよくわかんない。
そんな事言われたら、いけないことの意味を考えちゃって・・・。
そんな事考えたらダメだって思うけど、でも。

慌てていけないことを考えるのをやめる。

舞美ちゃんはこうして時に、優しくて残酷。
その残酷さに気づいてないのが、悔しい。

「あ、のさ。着替えちゃう前に・・・写真撮ってもいい?」
「え・・・?」
「えっと、デジカメ・・・あ、あったあった。」

舞美ちゃんが照れてるのを隠すみたいに慌ててデジカメを手に取る。
そして、私の右側にぴったりと寄り添う。

「じゃあ、撮るよ。」

カシャリ、と音がした。
正直自分がどんな顔したかもわかんないくらいすぐにシャッターを切られる。
撮った写真を見たら、案の定私は不意をつかれたような、そんな顔をしてた。

「これ、ヤだ。」
「え?どうして?」
「私、かわいくない。」
「そうかな?かわいいよ。」
「やーだー。」

こんな写り絶対ヤだ。せっかく・・・せっかくふたりで初めて撮る写真、なのに。
舞美ちゃんだけ、絶好の笑顔で。こんなのダメ。

「じゃあさ、愛理撮ってよ。」

舞美ちゃんからデジカメを渡される。

「じゃあ、撮るよー。舞美ちゃん笑って。」
「笑ってるってばー。」

カシャリ。

・・・その写真は後日、舞美ちゃんの部屋に飾られた。

舞美ちゃんは新しいコルクボードを買った。
まだ外せない、あの人との写真とは別に貼られた写真はまだ1枚だけ。
でもこれからきっと。どんどん増えていくんだよね?
新しいコルクボードを買ってくれたのは、そういう意味だよね?

いつかそのコルクボードに貼りきれないくらいに、私と舞美ちゃんで埋め尽くされたらいいと思う。
思う、じゃない。埋め尽くすんだ。

こんな風にゆっくりでいい。
ゆっくりでいいからふたりの距離を縮めていくんだ。



END