リーダー特権の撮影会

「これからみんなの入浴シーン撮影するから。」

ライブが終わって食事会も終わって、みんなそれぞれ部屋に戻りゆっくりしようとしていたら、舞美ちゃんに呼び出された。
私の部屋に来た舞美ちゃんが「部屋に来て」って。誘われた時は嬉しくって、ちょっとイチャイチャなんて想像していたのに・・・。
舞美ちゃんの部屋に来てみたら、ちっさーと舞ちゃんとなっきぃがいて、状況が把握出来ないまま空いていた椅子に座った。
舞ちゃんはふてくされたような明らかに不満な顔してて、ちっさーはベッドの上で今にも寝てしまいそうに目を細めていて、なっきぃだけは嬉しそうににこにこしてた。
「よし!全員そろったね!」と嬉しそうに言う舞美ちゃんに、舞ちゃんが「わざわざ部屋に来て強引に連れて来たんじゃん・・・。」って不服そうな声を出した。
舞美ちゃんにそれが聞こえてるのかどうかはわからない。

・・・で。突然そんな事言い出すから。

「いやいやいや。まぢ無理。」

舞ちゃんは以前にも撮影されてしまった被害者だ。
付き合いきれない、と言った感じで舞ちゃんは部屋を出て行こうとする。
でも、舞美ちゃんの足は俊足だった。すぐに舞ちゃんに追いつくとぐいっと肩を掴む。

「逃げられないよ。ふふふ。」

舞美ちゃんのとんでもない力で部屋の中に連れ戻された舞ちゃんは、その力によってベッドの上にどん、と体を置かれた。
同時にベッドが跳ねて、ちっさーがびっくりして目を醒ます。

「もう、みんなつべこべ言わない!じゃあ、まず・・・えっと、じゃあ歳の順番で舞ちゃんからね。」
「えー!っていうか、無理。」
「無理とか言わないの。ほら、行くよ。」

舞ちゃんの体をがっしりホールドして、そのまま舞美ちゃんと舞ちゃんはお風呂に消えていった。
ぱたん、と音がして閉まったドア・・・私はその一部始終を何も発せずにぼーっと見てる事しか出来なかった。

誰かと一緒にお風呂入るのとかホント苦手だし止めて欲しいのに。撮影とか舞美ちゃん、何考えてるんだろう。
まだ舞美ちゃんとすら一緒に入った事ないのに。恥ずかしい。
・・・でもすでに、舞美ちゃんには裸見られてるけど。私も見たけど。あんなこともこんなこともしたけど・・・今は関係ないけど。
でも一緒にお風呂とか、またちょっと違って恥ずかしいし・・・でも舞美ちゃんはガーッと脱いでガーッと洗いそうだなぁ。
そんな舞美ちゃんもかわいいなぁ・・・ってダメダメ。

慌てて妄想をかき消してちらりとちっさーを見た。
完全にベッドの上で寝ていた。すーすーと気持ちよさそうな息が聞こえてくる。
子供みたいでホントにかわいい。今のこの状況が嘘みたいに平和だ。

なっきぃはと言うと、鏡の前で何やらポージング・・・って!撮られる気満々!?
私は思わずなっきぃを二度見した。くねくね体を動かしながらやっぱりなんかポーズ作ってる。
くねくねは私の特許!とか言って・・・。
鏡の向こうに舞美ちゃんがいるのを想像しているのか、熱い視線を鏡に向けている。
なっきぃを撮影する舞美ちゃんが、いやらしくにたにた笑って喜んでる姿が目に浮かんだ・・・。

「なっ、なっきぃは撮られたいの!?」

動揺で声が上ずったけど気にしてられなかった。
なっきぃはポージングするのを止めて私を見る。その目はとても挑戦的だ。

「舞美ちゃんに撮影されるなんて嬉しくて!キュフフ。」
「何が嬉しいの?」
「だって舞美ちゃんの携帯のフォルダに私のあんな姿やこんな姿ののしかも動画とか・・・!」

すぐに消去するんだから!
っていうか、あんな姿とかこんな姿とか・・・ダメに決まってる!絶対にダメ!
でも今まさに舞美ちゃんはあんな姿やこんな姿の舞ちゃんを・・・。
誰にも負けないように私もポージングの練習する?とか、無理。
思わずドアを開けちゃいたくなる。阻止したくて仕方ない。体がくねくね動く。
そんな私見て、勘違いしたなっきぃは私をさっきの挑戦的な目で、見る。

「愛理には負けないから。」

いやいやいやいやいや!勝ちとか負けとかないから!

なんて思っていたら、舞美ちゃんと舞ちゃんが出てきた。
舞ちゃんはすっかり生気を奪われたようにぐったりしている。
舞美ちゃんは何故か勝ち誇ったような表情だった。え?やっぱり勝ち負け?

「先に部屋、戻る・・・。」

撮り終わって満足した舞美ちゃんは、さっきのように舞ちゃんを引き止める事はなかった。
ばたん、と音を立てて閉まったドアの音が重い。

「さ、次はちっさー・・・あれ?寝てるのかな?」
「うんうん、ちっさー寝てるからやめようよ。っていうかもうやめようよ。」

思わず早口で舞美ちゃんにそう告げると、顎に人差し指を当てて考える表情をしてる。
ああ、舞美ちゃんやっぱりかわいいなぁ・・・って思ったのも束の間。

「ちっさー!起きてー!」

私の必死の言葉なんて聞こえていなかったらしい。実際聞こえてたと思うけど、それはすでに何処かへ行ってしまったんだろう。
ぐらんぐらんと力いっぱいちっさーの体を揺らす。舞美ちゃんの力いっぱいは人並みじゃない。
「んー・・・。」って唸ってちっさーが目を醒ました。

「次はちっさーの番だよ!」
「・・・へ?」
「ほら、行くよ!」

寝ぼけて全く状況を理解していないちっさーを、舞美ちゃんが軽々と担ぐように持ち上げて浴室に連れて行った。
ぱたん、とドアが閉まった。

どうしよう・・・次、私じゃん。

撮影とかホント嫌だよ、舞美ちゃん・・・。
ふたりきりで、そういう時に見せるのはいいけど・・・こんな風なのは嫌だよ。
胸の奥が急に痛み出して、じんじんする。涙が出そうになる。
ドアの向こうから時々何かの音や笑い声が聞こえてくる。なっきぃは未だ鏡の前で時々わけのわからない声を漏らしていた。
私は椅子に座ったまま俯いている。
このまま立ち去ろうか、という気持ちになる。だけどそれは出来なかった。
逃げても結局捕まってしまうのがわかっていたから。

ぱたん、とドアが開く音がして、楽しそうに笑う舞美ちゃんとちっさーが出てきた。
舞美ちゃんの髪が濡れていた。
汗をそんなにかく程、白熱した撮影会だったんだろうか。
もしかしてもしかして一緒に入った・・・んだろうか。
だとしたらどうしよう。
ふたりの笑顔とは反対に私の表情はどんどん沈んでいく。

「じゃあ舞美ちゃん明日ねー!なっきぃと愛理もまた明日ー!」

ちっさーが部屋から楽しそうに出て行った。
舞美ちゃんとなっきぃがその声に応えるように楽しげに手を振った。
その途端、向けられた、視線。
逃れる事は出来ないだろう。

「じゃあ、愛理。行こっか?」
「や、だ。」

体を固めて抵抗した。だけど舞美ちゃんの力には当然敵わない。
私の体は簡単に持ち上げられた。歩こうとしているわけじゃないのに引っ張られる力で簡単に足が動かされた。
舞美ちゃんがカチャリとドアを開いて、先に私を入れる。後に続いて舞美ちゃんが入ってきて、ドアは閉められた。

「愛理。」

ドアにもたれかかったままの舞美ちゃんが、私を引き寄せて胸の中に入れた。
いつもと同じ舞美ちゃんの匂いにくらくらした。
目が合うと、いつものように重なった唇。湿度が高いせいなのかいつもより湿っている気がして、それがまた気持ちよかった。
「愛理、愛理。」舞美ちゃんがホントに愛おしそうに私の名前を呼ぶ。心が震えた。
今の状況を忘れて、私は舞美ちゃんの背中に腕を回してもっともっとって引き寄せた。
舞美ちゃんの腕も私の背中に回されている。
啄ばむように唇を合わせていたのに気を取られていると、舞美ちゃんの手の動きが怪しくなる。
私のTシャツの裾を掴んで上に上げようとしていて・・・。

「ス、ストップ!!」

思わず突き放すように体を離すと、きょとんとした表情の舞美ちゃんが私を見ていた。

「私の事、嫌?」
「ち、違うけど・・・あの、その。こういう事は・・・ふたりきりの時がいいな。」

言って顔が熱くなった。でも・・・言った事に後悔なんてない。今、こんな風にされるの嫌だ。

「・・・ふたりきりの時に、してくれる?」

舞美ちゃんの目が不安で揺れる。
ずるい、ホントずるい。
私の気持ちも知らないで、そんな顔して。
私は真っ赤だろう顔でうんうんって頷いて見せた。安心させるように、もう一度舞美ちゃんの腕の中に入って、唇を重ねた。
浴室の湿度の高い暑さでクラクラして、ホントは思考なんて吹っ飛ばしてしまいたい。
だけどドアの向こうにはなっきぃがいて。さっきまで舞ちゃんもちっさーもいた。
かろうじて残っている思考に感謝する。

名残惜しそうに離れた唇をお互いに目で追った。
私を見る舞美ちゃんの目は、いつものあの時の目でどくんと胸が鳴った。
その欲望にホントは溺れたかった。叶えてあげたかった、けど。やっぱり出来ない。

「出よっか?」

私の言葉に嫌と言いたげにだけど素直に頷いて、舞美ちゃんはドアを開けた。
ドアが開く音を聞いて、なっきぃがキラキラと目を輝かせて舞美ちゃんを見る。

「みぃたん、次は早貴だよね!」

そうだった。私が撮影されるという事は逃れられたけど、なっきぃと舞美ちゃんの撮影会からは逃れられていない。
でもどうやって阻止していいのかわからない。
横に立っている舞美ちゃんの顔を見る。視線を感じたのか舞美ちゃんが私を見る。
なっきぃに気づかれないように、舞美ちゃんのTシャツをぎゅうって握った。
舞美ちゃんがそれに気がついて、ふわりと優しく微笑んだ。

「ごめん、なっきぃ。もう終わりにする。」
「えっ?ええ?みぃたん??」
「もう楽しんだし。飽きちゃったー。」
「そ、そんな・・・だってポーズとかいろいろ考えて・・・。」
「ごめんね。また明日ね。」

なっきぃは何を言っても無駄だと判断したらしい。
さっきのような楽しそうな姿は跡形もなくて、肩を落としとぼとぼと部屋を出て行った。
それはそれでちょっとかわいそうにも思った。

なっきぃが出て行ったのを確認して、舞美ちゃんは部屋のカギをかけた。

「愛理・・・ふたりきり、だよ。」

さっきの強引すぎる勢いは何処へ行っちゃったのか、囁かれるように言われて・・・舞美ちゃん、ホントにずるい。
いつもそう思うけど、でも結局そんな舞美ちゃんが好きなの。
勢いよく飛びついて力いっぱい抱きしめたら、細いのに力強く私の体を包み込んでくれる。
少し息苦しいくらいの、だけどそれが私は好きだった。

「撮影、してもいい?」

耳元で囁かれて、舞美ちゃんの喉が鳴った音が聞こえた。

「撮影・・・じゃなくって・・・一緒にお風呂入ろう?」

それは私の精一杯。同じ恥ずかしい思いをするなら一緒に入る方がいい。
撮影とか一人にされてるみたいで寂しい。一緒に、がいい。
舞美ちゃんが驚いた表情をして、その後すぐに笑顔になる。照れくさそうに、だけど嬉しそうに。

「うん、撮影よりそっちがいい。」

天然の変態で困っちゃうけど、こんなに愛おしく思うなんて私も変態なのかな。
でもいいやって思うのはやっぱり舞美ちゃんが好きだから。

「愛理の体、洗っていいんだよね?」

・・・そんな事聞かないで欲しい。
でも頷いて見せる。
これ以上にないってくらいに幸せそうに笑う舞美ちゃんの手に引かれて、私はまた浴室に入った。

・・・その後の事?
それは誰にも教えてあげない。私と舞美ちゃんのふたりだけの秘密、だから。

◇◇◇

ベッドでまったりしながら、私は舞美ちゃんが撮った写真を見せてって問い詰めた。
舞美ちゃんは何も隠そうともせずに「いいよ」って携帯を見せてくれた。

「撮影・・・ってこれだけ?」
「だって、舞ちゃん怒ってシャワーカーテン閉めて・・・撮ったら携帯にシャワーかけるとか、最後には℃-ute辞めるとか言うし・・・。」
「正論だと思うよ。」

携帯の画面に写っているのは、ばっちりと顔を決めた舞ちゃんのドアップ。
ハロショで売っててもいいくらい、綺麗に撮れてる。

「でも舞ちゃんのかわいい顔撮れたからいいかなーって。」

デレデレしててちょっと・・・結構妬いちゃうけど。
でもあんな姿やこんな姿じゃないから・・・いいって事にしておく。

「ちっさーはなんか・・・一緒にシャワーかけたり遊んでたら撮影とかいいかって思って。」

子供みたいにはしゃいでるふたりが目に浮かんだ。
そんな舞美ちゃん見たかったなー・・・なんて。

「その後に愛理で。愛理が誘うから・・・撮影とかホントどうでもよくなっちゃった。」
「さ、誘ってないし!」
「どうでもよくなった、っていうのはちょっと違うかも・・・。愛理だったらいつでも何でも撮りたい。」
「舞美ちゃん、変態・・・。」

褒めてないのに嬉しそうに笑うんだから。

「なっきぃには悪い事しちゃったなー。」

なっきぃが最初じゃなくてよかった・・・ホントによかった。
私はいるかどうかもわからない神様に感謝する。手を合わせて天井を見上げた。
「何やってるの?」って舞美ちゃんに笑われて、ちょっと悔しい。

ねぇ、舞美ちゃん。
私いつも、舞美ちゃんの自然で無意識で何考えてるかわかんないところに結構ヤキモキしちゃってるんだよ?
きっと知らないよね、気づいてないよね。
でもそれが舞美ちゃんらしいから、知って欲しいとか気づいて欲しいなんて思わないよ。
だから私をいつでも好きでいて、いつでも私を欲しいと思っていて。

「今日はこのまま一緒に寝ようか。」

布団の中で手が重なった。今でもそれだけでこんなにドキドキしちゃうの。
舞美ちゃんがそばにいるだけで、付き合ってる今も好きが溢れ出る。

知らなくてもいいから、同じ気持ちでいて欲しい。天然な変態でも、いいから。
想いを込めて強く手を握る。離さないように強く強く。



END