素直なきもち 「ハッピーバレンタイーン!」
渡されたチョコレートはいかにも外国らしいちょっと高そうなチョコレートだった。包みが豪華で少し大人っぽい。 今年は作る時間なかったからごめんね、と渡されたそのチョコレートを受け取ってカバンに閉まった。 私から手作りのクッキーを渡すとホントに嬉しそうにしてくれた。それが嬉しいのにただ笑顔を作る事しか出来なかった。 それから愛理が嬉しそうにライブの話や現地でこんなことあんなことあったという話し始めた。 時々興奮するのか早口になったり身振り手振りを加えて一生懸命説明してくれている。 うん、うん。いつの間にか相槌ばかりになっていた。それは愛理の話に興味がないからというわけではなかった。 上の空、というわけでもない。ただ頭に入ってこない。 「・・・舞美ちゃん?」 「うん?」 態度に出そうと思っていたわけでもなくて自分も気づいてなくて自然に、そんな雰囲気を出していたのか愛理が話を中断した。 「つまん、ない?」 「そんなことないよ。」 愛理が全てを見透かしたような顔で目で、私の顔をじっと見つめる。 その視線をまともに受ける事が出来なくて、私は俯いた。俯いたのは自分に原因があって愛理は何も悪くない。 帰国して体を休めたいだろう、それなのに愛理は時間を作って会いに来てくれた。 会えるのも話を出来るのも楽しみで仕方なかったのに。それを自分が台無しにしている。 嫌だった。そんな自分も・・・楽しそうにみやの話をされるのも。 みやの話が出るのは当たり前なのはわかっている。わかっている。でも気持ちがそううまく処理してくれなかった。 チョコレートだって本当に忙しくて作れなかったのわかってるはずなのに。 豪華で綺麗だからこそ無機質に感じられてしまう。 ああ、やだ。こんなはずじゃなかった。そんなことばかり考えてしまう。 「舞美ちゃん。」 名前を呼ばれたと同時に俯いて足元を見ていた視線が上に上がる。 真っ直ぐに私を見る愛理と目が合った。 遅れて頬に柔らかくて温かい感触が伝わってきてそれで愛理が自分の頬を包んでいるのだとわかった。 目を逸らそうと思えば出来た。でも出来なかった。視線が真っ直ぐすぎて逃げる事が出来なかったから。 「舞美ちゃん、会いたかった。」 ふわりと微笑まれる。 どうしたの?聞かなくてもきっと私の気持ちをわかっているんだろう。 一番欲しかった言葉をもらって、心の底から気持ちを持っていかれる。 こんな気持ちになるのは愛理だからだ。嫌な気持ちを持ってしまうのも、こうして心奪われるのも。 「会いたかった。」 そう言葉にしたことでやっと素直な気持ちで愛理に向き合えた気がした。 「ホワイトデーはちゃんと手作りするから。」 さっきまでの気持ちはもう消え失せてしまったから、手作りじゃなくてもいいよと素直に思えた。 でも、そう言ってくれる愛理の気持ちが嬉しかったから、黙って頷いた。 約束するよ、って小声で言われた後にそっと交わした小指の約束。 絡んだ指が熱くてホントはこのまま全てを絡ませたかった。 END |
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