リーダーは天然鈍感

「ねぇ、舞美ちゃん覚えてるかな?」
「・・・忘れてると思う。」

ちっさーとそんな話をしてから、密かに企んでいた、ある計画。
もちろん、あの時と同じちさまいコンビで計画は実行される。

「今日の食事会でさ、また砂糖入れようよ。」
「さすがに舞美ちゃん気づくんじゃない?」
「・・・でも、舞美ちゃん、だよ?」

ひそひそ話していたら、後ろから何も知らない愛理が「おはよー」って呑気な声で楽屋に入ってきた。

「お、おはよっ」

焦ったためにふたりの声が上ずった。愛理はそれに気がついて「何?」ってちさまいコンビに入り込んできた。
キューティーガールズ勢揃い!・・・とか言って。

「な、なんでもないって!」
「そうだよ!舞美ちゃんを騙そうとか言ってないから!」

・・・ちっさー。

「騙す?」

愛理が考え込むような表情をしてちさまいコンビを見る。
舞がちっさーの背中を思いっきり叩いた。ばしん!と痛々しい音が楽屋に響いた。

「痛ったぁー・・・。」

ちっさーは自分の失言に気がついていない・・・これは舞美レベルの天然。
てっきり愛理に怒られると思っていた舞は、こっそりと気配を消して黙って愛理の前から去ろうとした。
でも、愛理が発した言葉は舞の予想を遥かに超えていた。

「舞美ちゃんには黙っておくから・・・何するか教えて?」

愛理は予想外ににやりと怪しい笑みを浮かべていた。
だから愛理にまた砂糖を入れることを説明した。
舞美ちゃんにはもちろん、言わないで欲しいと念を押した。
愛理は「わかった!!」と嬉しそうに言う・・・が、やじすずはガチすぎて、内心バレてしまうんじゃないかとドキドキしていた。

◇◇◇

当日。

食事会で用意されたのはカレーライス。
ここのお店の一押しらしい。
ちっさーはポケットから隠し持っていたコーヒー用のシュガーを取り出した。
舞はそれをにやりと笑って見て、目配せをした。
任せとけ!と言わんばかりに、ちっさーが用意されていたカレーに砂糖を振りかけた。
愛理もそれを見てにやにやしていた。

なっきぃと舞美だけがここにいなかった。
ふたりは仲良くトイレに行っている。
それは願ってもいないチャンスで、これを逃したらもう砂糖を入れる機会はないだろう。

舞の横は舞美、その隣がなっきぃ。
机の向こう側、舞の向かえには愛理、隣がちっさー。そのはずだった。
だって、リーダーの舞美が端っこになるはずなんかないと思った、から。
だけど、トイレから戻ってきた二人は予想とは逆に座った。
つまり、なっきぃの目の前にあるカレーに大量の、砂糖。

「いただきまーす!」

スタッフも入り混じって同時にカレーを口にした。
舞とちっさー、そして愛理はなっきぃのカレーに釘付けになっていた。
予想通り。カレーを口に入れた途端、なっきぃが騒ぎ出した。

「ちょ!このカレー甘いんだけど!!!!」

当たり前だった。だけど甘いのはなっきぃの、だけ。
スタッフと何も知らない舞美は疑問の表情をしている。

「みぃたん、ちょっと食べてみてよ!」

なっきぃが隣に座ってる舞美にカレーを差し出した。
一兎追うものはなんちゃら・・・じゃなくて一石二鳥?って思いながら、3人は舞美のリアクションを待った。
舞美は何の疑いも持たず、なっきぃのカレーをガーッと口に入れた。
ごくり、と喉が鳴った。

一瞬の沈黙。

なっきぃは同意を求めて目をキラキラ輝かせて舞美を見ていた。
そんななっきぃの視線に嫉妬丸出しの愛理。
悪戯した事にドキドキのちさまい。

舞美があむあむと口を動かして、ごくんとカレーを飲み込んだ。

「・・・甘いけどおいしいよ?ココナッツミルクとか入ってるんじゃない?」

キューティーガールズは絶句した。
舞美の舌は思った以上に壊れていた。
おいしいよって連呼して舞美は砂糖入りのカレーをどんどん食べていく。
舞とちっさーの目が合う。
愛理は舞美がカレーを食べる姿を凝視していて、なっきぃはそんな舞美の顔を嬉しそうに見つめていた。
みんなが黙っている、そんな状況に気がついた舞美は「ほら、食べなよ」って事もあろうが舞の目の前にカレーを差し出した。
舞は全力で首を横に振って拒否をした。
しかし、舞美は天然だった。
スプーンで不器用にカレーをよそって、舞の唇に運んだ。
口を閉じて舞は拒否をした・・・が、スプーンは唇にくっついていた。
舞美の目が獲物を捕えたかのようにキラキラ・・・いや、ギラギラ輝いていた。
ちっさーが憐みの目で舞を見ていた。愛理も同様。
もうこれは・・・食べるまで諦めてくれないだろう・・・観念した舞がゆっくりと小さく口を開いた。
瞬間、ガーッと流し込まれたカレー。
口に入れた瞬間、溶けきってない砂糖ががりがりと口の中で音をたてた。
まずい・・・辛いのに甘いなんとも言えないまずさが口の中いっぱいに広がる。
舞美の隣に座った事を舞は激しく後悔した。

「ね、おいしいでしょ?」

完璧な笑顔でそう言われたら頷くしかなかった。

「あ、なっきぃのカレーおいしすぎて半分なくなっちゃった。」

舞美は行動だけじゃなく味覚も天然だ。
それに気がついていない本人の舞美は、次に向かい側に座っていた愛理に矛先を向けた。

「愛理も食べる?」

愛理は即効首を横に振った。見た事ないくらい高速で。
だけどまたしても舞美は不器用な手つきでスプーンにカレーを乗っけた。

「愛理と間接チュー、とか言って。」

自分で言って恥ずかしくなったのか、舞美の顔は真っ赤だ。
そんな舞美の顔を見て、愛理の顔も真っ赤になった。
スプーンの上に乗っているカレーは絶対にまずい。
よく見ると、溶けきっていない砂糖が見える。
わかっているけど間接チューという罠に簡単に引っ掛かってしまった愛理は、ゆっくりと口を開けた。
それが雛みたいでとてもかわいい。
舞美は恥ずかしそうにだけど嬉しそうに笑って、愛理の口にスプーンを入れた。
ごくり、と愛理の喉が鳴った。
味わう前に飲み込んだんだろう。それはある意味正解だと思った。

「えへへ、愛理。おいしい?」

愛理はしゃべる事が出来なかった。首を縦に何度も振った。
だけど心なしか嬉しそうだ・・・やはりまずさより間接チューだったんだろうか。
その後に大量に水を飲んではいた、けれど。

それを見たなっきぃが黙ってるはずなかった。

「みぃたん!私にも!」

なっきぃがあーんと大きく口を開けて舞美を見た。
その口の開き具合を見て大喜びの舞美は、スプーンに大盛りにカレーを乗せた。
愛理が悔しそうにその光景を見ていた。
ちっさーは我関せずと、自分のカレーを黙々と食べていた。

なっきぃの口の中に入ったカレー。
舞美が嬉しそうになっきぃのリアクションを見ていた。
なっきぃは正直だった。いくら舞美からの間接チューだろうがまずいものはまずい。

「みぃたん!まずいっ!!!!!」

えっ?って顔をして舞美が怪訝な表情をした。
なっきぃは正解だよ・・・と、舞は心の中で同意した。
だけど舞美だけは納得いかないらしく、また砂糖入りのカレーを口の中に入れた。
隣にいるからわかるけど・・・舞美が口を動かして噛むたびにガリガリと砂糖の音がした。
でも当の本人が気づいていない・・・どこまで天然なんだろう。

「なっきぃ・・・おいしいよ?」

もう、騙すとかどうでもよくなった。キューティーガールズはそう思った。
舞美に盲目で事情を知らないなっきぃでさえ、どうでもよくなったらしい。

「じゃあ、このカレー。みぃたんにあげる。」
「え?いいの?なっきぃありがとう!」

・・・舞美ちゃんを騙すには砂糖なんかじゃダメなんだ、と心の底から思った。
敵は手ごわい。ちさまいは目を合わせてトホホと笑った。
愛理はだけは、砂糖とかどうでもよくなっていて嫉妬の目だった、けれど。

◇◇◇

「次は何しようか・・・砂糖失敗したしね。」

ちさまいで話していたら、舞美が楽屋に入ってきた。

「何話してたの?」

天然で鈍感なくせに!こういうところは妙に感がいいから困る。
遅れて愛理が楽屋に入ってきた。のほほんと「おはよぉー」なんて言ってるから、全てを愛理に任せた。

「ちょ、ちょっとトイレ行ってくるっ!」

舞はちっさーの手を引いて楽屋を飛び出した。
舞美は頭の上にハテナマークを浮かべていたが、すぐにそれは消えた。
愛理は舞美を独占出来る事に嬉しさを隠せずに、舞美の腕の中に入った。

「あ、愛理っ。」

いつでもなんでもがっしりと受け止めてくれる舞美の腕があったかい。
そんな優しくて柔らかくい温かさに愛理が浸っていたら、なっきぃが楽屋に入ってきた。

「みぃたんっ!」
「え?何??」

味覚だけじゃなく、いろいろな面で舞美は鈍感だった。
でもそういうところが愛おしいところでもあるから、困る。

◇◇◇

「次はご飯に塩とかどう?」
「色で気づかないと思う。舞美ちゃん、色で認識するから。」
「じゃあ、一味唐辛子を1瓶ご飯に降りかける!」
「色でわかっちゃうじゃんっ!」

ちさまいのいたずらはまだまだ続く・・・。



END