止まらないこの衝動

「うわー。きれいー。」
「ホントだぁ。」



いつだったか、高校の時。
帰るのがなんだかもったいなくって、屋上でふたりでボーっとしてたら、空に真っ赤な夕焼け。
ふと、隣にいる梨華を見たら、頬が夕日に照らされて・・・綺麗だなって思ってどきどきした。
胸の奥からこみ上げてくる感情が怖くて、美貴はずっと真っ赤に染まった空を見つめていた。

すき。

言いたくても言えなくて、セツナイってこういう事言うのかなって思ったら、泣けてきた。



「美貴・・・ちゃん?」
「んぅ。」



目をごしごしとこすって、誤魔化そうとしたけど。
梨華は一瞬、驚いていたけど、ふんわりと優しく微笑んで。



「特別だよ。」



って、美貴の事を抱きしめてくれた。
柔らかい感触と、ふわりと舞う梨華のにおいが、余計に美貴の心をぎゅってするから。
全部欲しいって思っちゃって、言っちゃおうか迷って。

だけど、言えなくて。

梨華が優しく、美貴の背中をよしよしって撫でる。
美貴はぎゅうって梨華の背中に腕を回す。

ふたりを照らす、切ないオレンジ。
心の中まで照らされてる気がして、苦しくて少し強く抱きしめた。

ふたりだけの世界で、このままで・・・。






夕焼けが消えて、辺りは暗くなってきて。
さっきまで部活動で騒がしかったグラウンドも、やけに静か。
どのくらい、こんな風に抱き合っていたのかもわからなくて、美貴は静かに顔を上げた。
そこには、優しい顔で美貴を見てる梨華ちゃんがいた。



「もう、帰ろっか。」
「・・・うん。」



美貴の手を引いてくれるこの手が欲しい。
少し強めに握ると、同じ分だけの力が返って来た。
暗くなった空、美貴の心もまた暗闇に隠して・・・。



梨華の自転車でふたり乗りして学校を出ようとしたら、先生に見つかった。
慌てて自転車を漕ぐ梨華ちゃんと、先生に笑って手を振る美貴。



「たまには、美貴ちゃんが漕いでよぉ。」
「だって、梨華ちゃんの自転車じゃん。」
「じゃあ、降りてよぉ。」
「やだよーだ。」



だってここは美貴だけの席でしょ?
降りてなんかやるもんか。



--たとえ、この気持ちが届かなくても。



END