奪われて

魅了されていた。

力強く響く声とか。
鋭くて凛とした踊りとか。
時折見せる、妖艶な表情とか。

変わって、子供みたいに無邪気にはしゃいで笑っている姿とか。


気づいていただろうか、同じステージに立っている同じグループの人が、こんなに見惚れて止まない事を。

目を奪われ、いつしか心までも奪われて止まない事を。


--それなのに。






「バカだなぁって思います。」
「ん、そうだよねぇ・・・。ごめん。」
「でも・・・悔しいけど、藤本さんらしいとも思います。」
「そっか・・・。」


そんな会話をしたのは、藤本さんがいなくなる数日前だった。
私は、いつからか藤本さんを意識しはじめていて、そう意識し始めた時に、先にいなくなるのはきっと私じゃないと思っていた。
その時を思い浮かべる時はいつも、もっと晴れやかでそれでいて切なくて。
今現実に起こっている、こんなカンジではなかった。



--それから数ヶ月が経って、1年が経って。



それから何度もあったライブで、私はいつも藤本さんの影をステージ上に追っていた。
でも、あの凛とした佇まいで、あの無邪気な表情を見せる藤本さんは、当たり前だけどいなかった。
まるで、最初からいなかったかのように。

きっと、誰がいなくなっても、こんな風な気持ちになるのかもしれない。
だけど、私には藤本さんの存在は大きすぎて、なかなか消化出来ずにいる。


同じメンバーではなくなり、ガッタスに所属しているわけでもなく。
今まで当たり前のように顔を会わせていたのに、それが突然何の接点もなくなってしまって。
携帯番号を知らないわけじゃない、会おうと思えばいつだって会える・・・だけど、会えなかった。

会いたかったけど、会ってどうしていいのかわからなかった。

最初は、会いたくないくらいに悔しくて悲しくて。
だけど、少しずつ。
いないから余計に藤本さんの存在が消えなくて。
そういえば私、先に立つ悔しさに押されて、魅了されてたあの気持ちや感謝も何も伝えていなかった、と気がついた。


何をされても、藤本さんのあの姿は消える事はなく、決して色褪せる事もなく。
いつだって私の中で、光り続け、魅了し続けている。


それは変わらない。
きっと何年経っても、きっと永遠に・・・。






テレビに藤本さんが出ていた。曲を出したんだと聞いた。
久しぶりに見る藤本さんは、柔らかくて、元々大人っぽかったけれど内面が大人っぽくなったような、落ち着いたカンジに見えた。

今までと全然違う曲を歌う藤本さんを見た時に、やっぱり私はその姿や声に魅了された。
光を失う事無く、むしろその光を一層強くさせた藤本さんの姿を見て、胸の奥がつんとした。

--私のこのもやもやした気持ちを救ってくれるのは、藤本さんしかいない。


会いたい、と思った。


会ってどうしていいのかわかんない、それは変わらないけれど。
もしかしたら、嫌な事を言ってしまうかもしれないし、逆に素直に言えるかもしれないし、何も言えないかもしれない。
だけど、会わなければいけない気がした。


手が震えるほど緊張して、メールを打った。

『明日、お昼くらいに事務所行ったら時間があるんですけど、藤本さん時間ありますか?』
『うん。美貴もお昼くらいに事務所行くから会おうか。』





--次の日、緊張して事務所のドアを開けると、その音に振り返り私を見つけた藤本さんは、とびっきりの笑顔で私を受け入れた。



END