ウソつきあんた

ヤツは夜中にやって来た。



ヤツは何でかご機嫌で、鼻歌歌いながらソファーに座ってテレビ見てる。
何がそんなにご機嫌なのか、幸せだと心の余裕ってものが滲み出るものなのかねぇ。


--いいけどね、別に。


「ねぇ、美貴もう眠いんだけどぉ。」
「帰れば?」
「もぅー。冷たいなぁ。」
「あのねぇ、私明日朝から仕事なの。」
「じゃあ、寝ようよ、ね?ベッド行こ。」
「はぁ?泊まるの?」
「亜弥ちゃん、嫌なの?」

うるうるした目で見つめられて・・・嫌なんて言えるか、バカ。

長年一緒にいると、遠慮とかそーいうのなくなっちゃうの?
夜中に突然連絡もなしにやってきて、眠いとか言っちゃって、しまいには泊まるとか言っちゃって。
ほら、親しき仲にも礼儀ありって言うじゃん?
あ、私ちょっと頭いいっぽくなくない?



--なんて、テンションもそりゃバカになるって。



私の上にいるヤツは、私にたくさん触れる。
熱くなった体が自分の感覚だとはっきりわかって、同時に自己嫌悪にも陥って。
私ってバカだなぁって思う。結局はこんな風になっちゃって。

止められなかったのは、どうしてなんだろう。

いつもそう思いながら、して。
熱いモノが込み上げて解放された時のふたりのテンションの差に、いつも愕然として。
もうしないって思うのに、触れられたらまた熱くなる体。
考えないように無感情になろうとしても、結局そこに引っ張られて、最後に調子のいいヤツの言葉だけが、耳の奥で音を立てて。
もうやだ、こんな思いもしたくないって、ずっとずっと、思ってた。

--のに。

「亜弥ちゃ・・・。」
「あっ・・・た、ん。」

ヤツが触れるたびに、暑く熱くなって、もどかしくって。
全身でヤツを求めて。

「もう、だ、め・・・。」

そう発した唇を塞がれて、ふたりの動きが合わさって激しさを増して。


--ねぇ、今だけは私を想って。


なんて。
そんな思いが過ぎって、ホントに私ってバカだなって思った。






いつもヤツが最後に耳元で囁く言葉。


「愛してる」


--バカげてる、嘘つき。


そう思っていながら、ホントはその時にその言葉が聞きたくて。
ただそれだけで・・・。



END