泡沫

じっとりと纏わりつく暑さに意識を戻されて、目を開けると見慣れない天井がぼんやりと見えた。
ゆっくりと目だけで周りを見渡してもまだ、見慣れないと言うか知らない景色に意識がはっきりしてくる。

---ああそうだ。

どうしてここにいるのかを思い出して、隣で下半身だけ薄いシーツをかけて眠っているその存在に視線を移した。
キャミソールからむき出しになった肩が呼吸で微かに揺れている。
恐る恐る手を伸ばしてその肩に触れると、指先に人の肌とは思えないくらいの熱さを感じた。
熱でもあるかのように体は熱くて、汗の量が半端ない。
触れて濡れた指先。思い出したのは、ついさっきの行為だった。

---なんで、あんな。

自分が軽い女だとか、酔っぱらってたせいだとか、そんな気なかったとか.
でも気持ちよかったとか、間近で見た顔がとんでもなく綺麗で引き込まれた、とか。
ぐるぐる頭の中に湧き出てきて頭の中が重くなった。そんな思考を止めたくて再び眠りにつきたくて目を閉じた。

少しだけ開いた窓からは湿った風が入り込んできて、熱くなった思考も体も少しだけ冷ましていく。
随分ダイレクトに風が当たって気持ちいいと思ったら、何も体に纏っていない事を思い出して急に恥ずかしくなった。
シーツは奪われているし、服は彼女の体の向こう側にあるから起こしてしまいそうで取る事が出来ない。
どうしようかと自分のカラダを見る・・・そういう事をした後だからなのか。
目を逸らしたくなってなるべくカラダが見えないように丸まって彼女に背を向けて眠る事にした。
その時体を動かしたために古いベッドがギシッと音を立てた。コンクリートの部屋にその音は無機質に響いてさっきの行為をまた思い出す。

「・・・まぁ。」

その音で目が覚めたらしく後ろから声がした。丸めた背中に当たる手のひらの感触がさっきの熱のままだった。
ビクッと震えた自分のカラダが悔しい。
振り向かずに返事もせずにいると、すらりと細くて長い腕が伸びてきて抱き寄せられた。
簡単に腕の中に収められる。
むせ返るような彼女の匂いと熱に包まれると、カラダの奥からじわじわと何かが湧き出るのを感じる。
それが何かは、わかっていたけれど。

「まぁ、こっち向いて?」

舞美と名乗ったその名前が本当かどうかわからなかったけれど、私が茉麻と名乗ると昔からの知り合いのように『まぁ』と呼ばれた。
初めて呼ばれるその響きは舞美のモノでしかなかったから。

ゆっくりと振り向くと、一瞬舞美が嬉しそうに笑って、それからの表情は唇を奪われたから見る事が出来なかった。
その口づけはまるでスイッチで、さっきまで頭を重くしていた思考は何処かへと行き、冷めかけたカラダは正直に熱くなる。

「舞、美・・・。」

呼ぶもんかと思っていた名前がうわ言のように自分の口から漏れた。
もう悔しさも恥ずかしさもなかった。
満足げに笑う舞美が私の指を軽く噛む。甘い痺れは指先から全身に流れる。
指を舞美の口から出して、唇をゆっくりとなぞるとまた指を咥えられる。
我慢出来なくて力の限り抱きしめる。お互いに湿ったカラダをくっつけて触れて触れられて熱さを共有して。


このままこの熱さに溶けてしまえたら。
現実をここに全て溶かしてしまえたら・・・。



END