やっぱりそうだ あなただったんだ

「ねぇねぇ、ガキさん。それでね、この前・・・。」
「あ、愛ちゃん!カメ・・・その話また後でね。」


椅子から立ち上がって走っていく後ろ姿が、なんかムカつく。

・・・ふぅん。
なんだよぉ。ガキさんめっちゃ笑顔になっちゃってさー。
だいたいさぁ、今、絵里がとっても楽しい話聞かせてあげようと思ってたのにー。もぅー。

つーまーんーなーい。

ガキさんは愛ちゃんと楽屋を出てっちゃったし、さゆは・・・。


「ねぇねぇ、さゆさぁ。」
「・・・はぁ。」
「この前ねぇ。」
「・・・はぁ。」
「ちょっと。絵里の話聞いてる??」
「藤本さんが、メールの返事くれないの・・・。」
「はぁ?」


携帯を握り締めて、今にも泣き出しそうなさゆも、なんかムカつく。
こんなおもしろい話聞かないと損するのになー。
ホント、つまんない。つまんない。
大体、恋って何?そんなに大事?絵里の話より大事??

いいもーん。れいなに聞いてもらうんだから。
ガキさんもさゆも、後でこの話聞きたいー!とかって言っても、知らないからね!

れいなの元に向かおうとしたら、少し乱暴に楽屋のドアが開いた。
そこにはガキさんが。


「カメ、ちょっと。」
「イタタタ。ガキさん、何ですかぁ。」


絵里の手首を力強く掴むガキさんの手が、食い込んじゃうんじゃないかってくらいに。
引っ張られて、楽屋を出て、階段の踊り場まで。
そこでやっとガキさんが手を離してくれて、見たら手首が赤くなってた。
痛いなー。なんでガキさん、どうしたんだろう?

踊り場に座ると、お尻がひんやりした。


「ガキさん、どうしたんですかぁ?」
「さっきの話の続き。」
「えー。もう教えませんよぉ。だって話してる途中でいなくなっちゃうんだもん。」
「いいから教えてよ。」
「いやですよー。絵里、寂しかったんだから。」


寂しかった?
ううん、違った。ムカついた、だった。
そう言い直そうとしたんだけど、なんだかガキさんが真剣な顔してたから。

どうしたんだろう?ガキさん、なんかヘンだなぁ。

そういえば、ふたりで何話してたんだろう?
あんな楽しそうにふたりで・・・どこ行ってたの?

あー、なんかムカムカする。


「カメ、寂しかった?」
「あ、間違えました。ムカついたんですよぉ。」
「そっか。」
「そっか、じゃないですよぉ。」


ガキさん、どうしたんですか?

胸の奥がドクドクして、ムカムカして、少し息苦しくて、なんかよくわかんない。
前にも似たような感じに。その時もガキさんと一緒だったような。
あ、あれかなぁ?ガキさん恐怖症候群とか?
でも、別に恐怖なんか感じないし。


「ガキさん、絵里なんかわかんないんですけど、ドクドクしてムカムカするんです。」


そう言ったら、ガキさんが絵里を見て、少し困ったみたいに笑った。
もしかして、ガキさんは答え知ってるのかもしれない。


「ねぇねぇ、どうしてですか?」


そう言うと、さらに困った顔になって、ガキさんの手が絵里の頭に。
なでなでされたら、また少し息苦しくて。
やっぱりガキさん恐怖症候群なのかも・・・だったら絵里はどうすればいいんだろう?


「カメはどうしてかわかんないの?」
「わかんないから聞いてるんですよぉ。」
「そっか。まだわかんなくてもいいよ。」
「えー!なんでですかぁ!」


言い終わったと同時に、抱きしめられた。
あったかくて、いいにおいがして、きもちいい。
くんくんってしてたら、少し落ち着いてきた・・・かも。

でも、なんか・・・。


「わかった時には、ちゃんと言ってね。」


ガキさんの声も、背中を撫でてくれる手も優しいから、眠くなってきて。

なんかもういいやー・・・。

だからガキさん、もう少しこのままでいてもいいですか?



END